授業紹介:メディア専門演習「映像と音楽・音響デザイン」(その3)
2026年10月 2日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース
メディア学部の伊藤です。
前回は「練習映像」での成果物をご覧いただきましたが、シリーズ最終回の今回は、最終発表のお題の「課題映像」に音付けした成果物をご紹介します。
「練習映像」は10〜20秒程度の短いものでしたが、「課題映像」は1分前後の長さがあり、シーンの転換や様相の変化もあるので、時間の経過に沿ってどのように音を付与するか(あるいは付与しないか)デザイン的な思考が求められます。また、映像を見てサウンドのイメージを広げることも大事です。そのため、「課題映像」では実際に音付けする前に「課題映像の分析シート」を受講生に配布し、映像にどのようにアプローチするか検討する時間をとっています。
このシートは次の項目があります。
(1) 映像を観て感じたこと
(2) 映像を観て抱いたイメージ
(3) 映像から想起されるストーリー
(4) 付与する音楽・音響の意図・狙い
シートの下半分には、映像をいくつかの部分に分割して、それぞれの内容やサウンドの付与についてのアイデアを記入する表が用意されています。

「課題映像」への音付けの作業では、「グループディスカッション」が2回実施されます。「映像に合う・合わない」といった表面的な判断ではなく、受講生が互いに音付けの意図を説明し、表現の可能性について意見交換します。
ディスカッション後のアンケートでは、「自分のイメージとは異なる視点をもらえて勉強になった」「一人で作業して行き詰まっていたので相談できて良かった」「自分では違和感があると思っていたところが、それほど不自然でないと言ってもらえて安心した」「DAW経験者に自分が知らない機能を教えてもらって助かった」などの好意的な感想が多く、非常に有意義だったようです。
さて、上記の制作プロセスを経てどのような音付けがなされたのでしょうか? どの受講生もユニークなアプローチで音付けを行なっていますが、今回はその中から4名の成果物を掲載します。また、映像からどのようなことを感じ、イメージしたのか、学生が書いた内容の抜粋も記載しましたので併せてご覧ください。
「渋谷 上から見たスクランブル交差点」
【E.Y君】
(1) 映像を観て感じたこと:特別な様子はない。厚い雲がかかっている。交通量は少なく、平日っぽい。
(2) 映像を観て抱いたイメージ:大気、雲、湿った、日常、交通、信号機、雨、穏やか
(3) 映像から想起されるストーリー:いつもと変わらない大きな出来事もないような日。空がどんよりしている。
(4) 付与する音楽・音響の意図・狙い:ドラマチックな展開ではなく、テンポも遅めのゆったりとしたものを付与したい
*シーンの分割:4つ
【K.K君】
(1) 映像を観て感じたこと:人の数、白線に乗る車、隙間ないビル、曇り空。窮屈そうで息が詰まりそうな感覚を覚えた。
(2) 映像を観て抱いたイメージ:良いイメージはあまりない
(3) 映像から想起されるストーリー:自分がここにいるなら、端的な音が聴きたかった。粛々と世間が進んでいる。
(4) 付与する音楽・音響の意図・狙い:ピアノソロのための環境音。映像の解像度を上げる。少しの明るさを最後に。
*シーンの分割:6つ
【S.Hさん】
(1) 映像を観て感じたこと:規則的な動きが息苦しそう。バイクだけ自由さを感じた。日に照らされて建物や人が前向きに見えた。
(2) 映像を観て抱いたイメージ:無機質で秩序的。予測ができない群衆のエネルギー(自由さ)。バイクは唯一無二な異質感がある。
(3) 映像から想起されるストーリー:毎日の規則的な繰り返しは息苦しい→徐々に不規則になり、バイクの動きを起点に開放→自由な群衆→群衆がそれぞれの建物へと前向きな気持ちで進んでいく
(4) 付与する音楽・音響の意図・狙い:社会の規律性や重苦しさを伝える。群衆の開放とポジティブ感。
*シーンの分割:6つ
【N.M君】
(1)映像を観て感じたこと:思ったよりゆったりとした動きをしている。画の変化が大きい。
(2)映像を観て抱いたイメージ:どちらかというと無機質。散乱、乱雑なイメージ→「何もなさそうだけど何かありそう」
(3)映像から想起されるストーリー:何気ない日常が、ふとしたことで「実は何かを見落としているんじゃないか」と思わせるような感じ
(4)付与する音楽・音響の意図・狙い:シーン2での留めと、人・車の対比を作る。電子とアコースティックの中間。サウンドによる物語の付与。
*シーンの分割:5つ
4名の成果物をご覧になっていかがでしたでしょうか? 映像の時間が長いこともあって、「練習課題」と比べてサウンドの表現の違いが大きく、それぞれの独自性が明確に感じ取れると思います。一見すると無機的な印象の渋谷の風景が多様な表情を帯びて、映像の前後のストーリーも垣間見えてくるようです。
映像作品の特定のシーンに対して「合う音楽(音)」「合わない音楽(音)」と言われることがありますが、音楽・音響の制作者としてその映像に何を見出すか(あるいは意味を付与するか)によって、どのような音楽(音)も映像に組み合わさる可能性をもち、実際はもっと複雑で多義的だと思います。
例えば、ホラー映画で恐ろしいシーンに明るい音楽が流れたとしたら、むしろ恐怖感が増すと思いませんか? ハッピーエンドで終わるシーンに憂いを帯びたメロディが聞こえてきたら、その後の展開に望ましくない出来事が起こるのではと気になりませんか? もちろん、何でも良いというわけではなく、シーンの内容とその前後の流れを的確に捉えた上で、明確な意図に基づいた表現上の効果を目指す姿勢が求められてきます。映画だけでなく、あらゆる映像作品を対象として、その中で用いられているサウンドに注目するとさまざまな発見が得られることでしょう。
ちなみにこの映像、私は全く違和感なく普通の風景として見ていましたが、受講生の一人から「古い映像ですね」と言われて驚きました。映像のクレジットを確認したところ2006年12月に撮影されたものらしく、考えてみれば今から20年前、つまり受講生が生まれた頃の渋谷の風景なんですね。図らずも演習の課題を通して、自身の年齢や学生との年代の差を強く感じた次第です。(※何度見ても私には古い映像には見えないのですが…。この記事をご覧になっている皆さんはどうでしょうか?)
3回シリーズでお届けしたメディア専門演習「映像と音楽・音響デザイン」の授業紹介は以上となります。これを機に本演習や映像の音楽・音響に興味をもっていただけましたら大変嬉しいです。
(メディア学部 伊藤謙一郎)



