AAS2026参加報告②
2026年4月 8日 (水) 投稿者: メディア社会コース
皆さま、こんにちは。
前回の記事の続きになります。
前回は、Association for Asia Studiesというアジア研究の国際大会がバンクーバーで開催されたことをご報告しました。
アジア研究の世界最大規模の学術会議で、数十のパネルが同時進行していますが、個人的に興味深かったパネルについてご紹介したいと思います。
1.「ケア」の語りとスマートシティ——東南アジアの事例から
スマートシティはしばしば「市民のためのケア」を謳いますが、このパネルではその言説が実際には監視・排除・権力維持に機能していることを批判的に検討しました。東南アジアの事例を通じて、データ駆動型の都市ガバナンスが「誰の声を可視化し、誰を見えなくするのか」を問う鋭い議論でした。テクノロジーが社会的公正と衝突するとき何が起きるのか——理工系の学生にとっても考えさせられる内容です。
2.中国・シノフォンのゲームスタディーズ——伝統文化はゲームでどう語り直されるか
中国本土・台湾のビデオゲームが伝統文化をいかに再解釈・再構成しているかを多角的に論じたパネルです。道教的宇宙観を組み込んだゲームシステム、五行思想のゲームデザインへの応用、台湾ゲームが中国の歴史的シンボルを逆手に取るアイロニーの政治など、ゲームを通じた文化的アイデンティティ形成の議論は非常に刺激的でした。
3. K-POPファンダムーープラットフォームの資本主義、国家のソフトパワー戦略、ローカルな文化受容
これまでファンは、企業が作ったコンテンツを消費するだけの受け身な存在だと見なされてきました。しかし、このパネルが示したのは、その正反対の像だ。
ファン活動で得たデザイン・翻訳・映像編集などのスキルを武器にプロのクリエイターへ転身する人々。二次創作を通じて公式の歴史とは異なる「自分たちの記憶」をアーカイブ化する試み。そして「盲目的なファン」という女性蔑視や人種的偏見に対して知的な活動を通じて異を唱える動きなど。——ファンはすでに、文化を受け取る側ではなく、能動的に作り出す側にいることが議論されました。
さらに、ペンライトを振る、SNSで拡散する、組織的に動員するといったアイドルの応援で培われたこれらの手法が、今や国境を越えて社会運動のツールとして転用されている。台湾の「青鳥行動」やフランスの若者による政治家の選挙応援など、個人の「好き」という情熱が公共の場での政治参加へとつながっていくことがデータとともに明らかにされました。「推し活」と民主主義が交差するこの現象は、従来の政治学の枠組みでは捉えきれない、新しい市民社会の姿を映しています。
4. 「新しい」技術の古い起源——日本におけるロボット・生体認証・ケアの歴史
最先端に見えるAIやロボットも、歴史的文脈なしには語れない——このパネルはそのことを鮮烈に示していました。戦前の植民地における指紋識別制度、戦後ロボット開発の系譜、介護ロボットの「生産性」化、そしてアバターロボットが労働から排除された人々を「労働力」に変換しようとする試みまで。テクノロジーは政治・経済・植民地主義の歴史と切り離せないという視座は、理工系の学生にとっても重要な問いかけです。
おわりにーー自分自身の発表について
今回のAAS 2026では、私自身も発表の機会をいただきました。日本に移住した外国籍女性アーティストへのフィールドワークをもとに、彼女たちがビザ制度(フリーランスの在留資格問題)・ジェンダー(家庭との両立の問題)・アート市場(作品の評価と値付けの問題)という三重の不安定さをどう生き抜いているかを論じました。地道なフィールドワークが国際的な場で問いとして成立したことを、素直に有難く思っています。アートと移民、文化政策と多文化共生——この研究が、そうした課題を考えるための第一歩になれば幸いです。
(社会コース 助教:陳海茵)





