メディアサイエンス専攻で博士号を取得した渡邉賢悟氏の博士論文が情報処理学会の研究会推薦論文に選出
2013年9月 3日 (火) 投稿者: コンテンツ創作コース
情報処理学会では、毎年多数の学生が研究発表を行っています。それらの成果は、博士課程の学生の場合、博士論文としてまとめられることになります。優秀な博士論文を多くの会員に知ってもらうために、研究会が推薦をしています。
メディアサイエンス専攻で2013年3月の博士号を取得した渡邉賢悟氏の博士論文が、「グラフィクスとCAD研究会」の委員の方々から多様で多数の推薦論文の中で、特に優秀であると評価され推薦されました。全国の大学から情報やメディアに関係する博士論文が推薦される中、30件の推薦論文に選出されたことは、本学の学生の優秀さを示していると思います。
渡邉氏の論文題目は「ビジュアル表現支援のための画像メディアツールの構築」で、斬新なアイデアで高く評価できるとともに、大きな実用性を持つ論文として評価されました。推薦理由や論文概要は、情報処理学会のこのページから見ることができます。
■渡邉賢悟氏 博士(メディアサイエンス)のコメント:
情報処理学会の推薦論文に自分の博士論文が選ばれたこと、大変光栄に思います。ありがとうございます。この研究の始まりは、メディア学部生4年の卒業研究からですが、結果として、このような研究成果に育つとは思いませんでした。対外的にも評価いただけたことをとても嬉しく感じております。10年間積み重ねた努力が無駄でなかったとかみしめております。と同時に、あくまで良いスタートを切らせていただいたに過ぎないのだ、とも思っております。これからも研鑽を積んでより良いモノを生み出していきたいと気持ちを新たにしていきます。
■研究概要:
本研究は,自己表現や他者へのメッセージ伝達に用いるリソースとしての「画像」に注目し,画像による表現を支援するための画像メディアツールの構築を目的としている.
本論文では,画像メディアツールの構築にあたって,まず「メディア」と「表現」に関し考察を行い,本研究の基盤となる「メディアモデル」を提案している.このモデルにより,メディア,コンテンツ,メッセージ,リソース,メディアツールなどの関係を明らかにした後,以下の三つのアプローチを提示し,研究の方向付けを行っている.一つ目は画像表現になじみの無かった人に向けた「画像表現の容易化」,二つ目は画像コンテンツ制作の負荷を軽減する「画像表現の効率化」,三つ目が「新しい画像表現手法の提案」である.これらのアプローチを,以下の5つの画像メディアツールの研究・開発により具体化している.
第1の研究は,ディジタル描画に不慣れな人に向けたディジタル描画ツールの開発である.一般の人が慣れ親しんだ水彩画材を手本とし,混色・溶剤・紙と溶剤拡散などを表現するための描画モデルと,水彩画材に近い使用感を実現するためユーザインタフェースを開発した.本研究の成果であるディジタル描画ツール「ゆめいろのえのぐ」は,国際学会(NICOGRAPH International)で発表するとともに,web上での一般公開を行い50万件のダウンロード数を数えている.また本ツールは,雑誌,テレビなどでも取り上げられ,その使い易さ・描画能力などが高く評価されており,「画像表現の容易化」を可能としたものと評価できる.
第2の研究は,コンテンツ制作におけるキャラクタのビジュアルデザインの工程を支援するための画像コラージュツールの研究・開発である.本研究において特筆すべきは,画像合成の新しい技術であるPoisson画像合成を的確に応用し,色合いが異なる画像パーツを違和感なくなじませる自動シームレス合成を実現した点である.このツールを用いることにより,デザイン案に関わる者全員が自身の制作意図を容易に視覚化することが可能となった.
第3の研究は,アニメーション制作における膨大かつ煩雑なエフェクト付加作業を画像処理で自動化するツールの研究・開発である.特にアニメ画像にグラデーションを付与するエフェクトに注目し,これまで手作業行われていた煩雑な作業プロセスを自動化した.開発したツールはエフェクト付加の作業の効率化に有効であり, 30以上のTVアニメおよび劇場版アニメ作品の実制作で用いられており、高い実用性が評価できる.
第4の研究では,レーザミラースキャナ計測で得られる実空間の3次元点群情報を利用した,新たな画像表現の方法を提案している.著名な点描画家ジョルジュ・スーラの描画理論および描法を分析し,これに基づき点群情報を点描画風に加工する手法を提案し, 3D点描画空間をウォークスルーできる描画ツール”3D Seurat”を開発した.3次元点描画空間のウォークスルーはこれまでに無いものであり,「新しい画像表現手法の提案」として評価できる.
第5の研究は,作業負荷が大きい点描画を容易に描けるようにする点描ブラシツール”Seurat Brush”の研究・開発である.本研究では,ジョルジュ・スーラの描画理論および描法に基づきインタラクティブな点描作成アルゴリズムを考案し,描画ツールとして実装している.点描画はその膨大な作業負荷のため誰でも描けるものではなかったが,本ツールを用いることにより短時間で点描画制作が可能となった.
本研究の意義は,上記5つの画像メディアツールの開発により,従来の文字や言葉による表現手段に加えて,画像を表現手段の一つとして容易かつ効率的に活用できるようした点にある.また学術的な成果のみならず,ツールを一般公開したことにより多くのユーザを獲得し,アニメ制作の現場でも活用されており,その実用性・完成度は高く評価できる.
(1)公開ソフトウエアが複数あり、それらが50万本、45000本というダウンロード数である。このうち、「ゆめいろえのぐ」は、総務省のデジタルアートコンテストやNIHK番組「趣味悠々」で紹介され利用されてきた実績がある。
(2) アニメ制作支援の開発ソフトウエアが、30を超えるTVアニメ、劇場アニメなどの公開された作品に活用実績がある。
「研究紹介」カテゴリの記事
- 映像表現・芸術科学フォーラムにて卒研生が優秀発表賞を受賞(2019.03.17)
- 自由な言葉でライブパフォーマンスをアレンジする(2019.03.16)
- 先端メディア学II(2年生)の学生が人工知能学会の研究会で発表(2019.03.15)
- 映像表現・芸術科学フォーラムでの発表(2019.03.10)
- ゲームの学会?!(2019.03.07)