「テレビという技術」シリーズ・宇佐美亘 〜テープは遠くなりにけり・その1〜
2014年6月 6日 (金) 投稿者: ソーシャルメディアサービスコース
「テレビ番組は録画して放送されるもの」、という知識は誰でも持っていると思います。なにしろ、多くの人が放送される番組を自分で「録画」して、好きな時間に見る時代ですから。しかも今日では、「録画」はハードディスクが主流ですね。でも、以前はたしか(カセット)テープを使っていたよな、と思い出す人もいるでしょう。
では、なぜテレビ番組はテープに録画されるようになったか。そして、そのテープはどのような変遷を経て、ハードディスクに取って替わられ消えていったのか。しばらく、このシリーズにおつきあいください。
■VTR誕生■
2011年まで日本で使われていたテレビの方式=NTSC(白黒テレビ→カラーテレビ)の母国アメリカ。そのアメリカのお国事情に絡んだ話です。大陸国家アメリカ合衆国(本土)は、おおむね4つの時間帯に分かれていることはご存じかと思います。
これが、テレビと視聴者の関係に大いに影響するのです。ニューヨークで、夜のゴールデンタイムに放送する番組が、同時に西海岸で放送されたらと考えてみてください。時間帯が違うと、ゴールデンタイムとはずれてしまう場合が生じてしまうのです。つまり、全米で、看板番組をゴールデンタイムに放送したければ、生放送をいったん録画して、時間帯に合わせて時差再生する必要があるのです。
必要は発明の母。アメリカのアンペックス社が、情報量がとてつもなく大きい(当時としては)テレビ映像を、磁気テープに記録する装置の商品化に成功したのです(1956年)。すなわち、ビデオ・テープ・レコーダー(VTR)の誕生です。初期のビデオテープは、幅2インチの規格だったので「2インチテープ」と呼ばれていました(あたりまえですね)。
■進化するVTR■
私は、1976年にNHKに入局し、番組ディレクター・プロデューサーとして働いてきました。若手時代、放送センター内の映像・送出ルームに行くと、現役の2インチVTRを見ることができました。大型冷蔵庫を何台か連結したような、巨大な筐体に驚いた記憶があります。
当時、屋外での番組収録には、この2インチシステムを、巨大な「中継車」に積み込んで大人数で出かけていました。しかし、もっともっと気軽にビデオ収録に出かけたい、と人間の欲望は広がります。(当時、スタジオ以外のロケは16ミリフィルム取材が普通でした)
そこでまず登場したのが、2インチVTRの小型化です。小型化はテープ巻き取っているリールの口径の縮小から始まります。録画時間はテープ1本20分と割り切って、リールも筐体もぐっと小さくしました。さらに電源をバッテリーにして、可搬性を高めました。これにより、大型冷蔵庫大だったVTRが、独身者用冷蔵庫を横倒しにしたぐらいの大きさになりました。
1980年前後、地方局に勤務していた私は、この小型VTRと小型カメラ、それにスタッフ数人とともにワンボックスカーにのって、県内あちこちに出没しました。慣れてくると、目的地に着き車のスライドドアを開け録画システムを接続しスタンバイになるまで、実にてきぱきと準備できるようになりました。でも実際のロケ風景は、小型VTRを背負う人、ケーブルに繋がった「カメラヘッド」をかつぐカメラマン、その間に分離式のカメラコントロールユニット(CCU)を持つVEさんの3人が縦一列に繋がってぞろぞろ歩きます。ケーブルに繋がった3人の列が、まるで鎖につながれた奴隷の行列のようで(スタッフの皆さん重くて申し訳ないが)、思わず笑ってしまう光景でした。山の中でも、街の中でも、素早く活動したあのチームワークが今は懐かしい。
と、懐かし話になってしまいましたが、この後のVTR進化はさらに早くなりますが、続きは次回に。