おもしろメディア学 第25話 音名のはなし【その3】:人の名前から音楽をつくるって?
2014年8月26日 (火) 投稿者: コンテンツ創作コース
「音名のはなし」も3回目。これまでは音名そのものに焦点を当てた話が中心でした。今回は創作に関わる内容に比重を置いて、音名からメロディを編み出し、それをもとに音楽をつくる方法を紹介したいと思います。ドイツ語表記の「ツェー」「デー」「エー」・・・、皆さん覚えていますか? これを用いますよ。
クラシック音楽の中には、人の名前やイニシャルの文字をメロディの一部に取り入れた曲が数多くあります。このような曲で最も有名なのは、「音楽の父」とされるヨハン・セバスティアン・バッハ(1685〜1750年)の名前でしょう。「バッハ」はアルファベットで「BACH」と表記されます。これをドイツ語表記の音名として読んで、「シ♭ - ラ - ド - シ」のフレーズを作るのです。
[図1]バッハの名前から作られるフレーズ
上に示したフレーズは「バッハ主題」とも呼ばれ、バッハ自身だけでなく、バッハを尊敬する後世の作曲家たちが、この音の並びを取り入れた曲を書いています。バッハの曲では、晩年の傑作とされる「フーガの技法 BWV1080」に見られるものが特に知られていますが、今回は「前奏曲とフーガ 変ロ長調 BWV898」をご紹介しましょう。この曲は「前奏曲」と「フーガ」の2つの部分から構成され、前奏曲に引き続き演奏されるフーガのテーマとなるメロディに「シ♭ - ラ - ド - シ」が使われていますす。フーガの最初のほうの楽譜を用意しましたので、演奏を聴きながら「シ♭ - ラ - ド - シ」のフレーズを追ってみてください。途中の「ファ - ミ - ソ - ファ♯」のフレーズも「シ♭ - ラ - ド - シ」から作られたものなので、聴き逃しのないように。
[図2]バッハ「前奏曲とフーガ 変ロ長調 BWV898」楽譜(抜粋)
ちなみに、私の名前「伊藤謙一郎」からは、次のような音の並びが抽出されました。
[図3]伊藤謙一郎の名前から作られるフレーズ
「伊藤謙一郎」をアルファベット表記にすると「KENICHIRO ITO」となり、その中からドイツ音名に該当する「E」「C」「H」の3文字が使われています。徐々に音の高さが下がる形で「ミ - ド - シ」と並べてみましたが、その音名の音が用いられていれば、オクターヴの位置はどこでも構いません。私は「音楽入門」という授業を受け持っていて、音名について説明した回では、このフレーズにもとづく即興演奏を行いました。そのときには「C」と「H」の音は、上の楽譜よりも1オクターヴ高いものにしました。
次回は、この授業の履修生の名前をもとにして作った曲を紹介します。
(執筆:伊藤 謙一郎)