おもしろメディア学 第29話 私は誰に頼ることが出来るのか? 会話分析の世界
2014年9月 4日 (木) 投稿者: ソーシャルメディアサービスコース
エスノメソドロジーという社会学の新しい分野を作ったハロルド・ガーフィンケルは、アグネスという男性として産まれた19歳のタイピストの聞き取りを行った。その聞き取りで、アグネスは普通の世界(日常的世界)についてそれを語った。アグネスは、手術を受けて女性となったが、彼女の語った世界をガーフィンケルは「アグネス」という論文として記述し、現在も『エスノメソドロジー』という本に収められ多くの読者をえている。
この私たちの日常的世界について、会話分析の創始者であるハーヴィー・サックスは『会話の講義録』として編纂された本などを通して、様々な分析を行った。
サックスは、自殺を考えている女性が、自殺予防センターに電話をしている時に、「誰も助けてくれる人はいない」と言ったことをとりあげた。女性は、夫の親友と不倫をして、その不倫相手には別れれば夫にばらすと言われて、そして女性の母親は心臓疾患を抱えているため、それが分かれば母親は心臓発作を起こす可能性があるそうである。
しかし、なぜ専門家に相談をした女性が「助けてくれる人がいない」というのだろうか。
サックスは、人にはある行為に適切な関係対があると指摘している。この女性にとっては、「助けてくれる」関係対にある人は、夫や母親である。しかし、女性はこの「助けてくれる」のに適切な関係対にある人間ではない、むしろ「助けてくれる」のには不適切な「見知らぬ人」である専門家に相談せざるをえない。専門家は、自分たちが「適切な人」であることを相談者に説得するのである。
しかし、ここで重要なことは、私たちは、「当たり前」のように考えていること、例えば誰が私を救ってくれるのか、私は誰に頼ることが出来るのかということを、私たちがどのように考えているかを、会話分析は明確に示しているのである。
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