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おもしろメディア学 第31話  やってはいけない話・その3

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「我が大草原の母」という素晴らしい映画を見ました。日本では劇場未公開ですが、NHKのBSシアターで放送されました。

この映画のクライマックスで、ひときわ輝く存在感をはなっていたのは、ひと盛りのリンゴでした。

主人公の青年が、長い間はなればなれになっていた両親と再会するのですが、あまりにも長い年月が過ぎて、そこにはどうしようもない心の溝が生まれていたのです。その溝を埋めるように、親子で口にしたものが紅く熟れたリンゴだったのです。

ところで、このリンゴのように、テレビや映画に登場する食べ物のことを「消えもの」と言うのことはご存じでしょうか。

撮影現場では、「今回の撮影で消えてしまいますよ」というものをこう呼びます。卵焼き、ハンバーグ、お刺身、ジュース、演技の途中で役者さんが食べてしまうものはすべて「消えもの」です。もし役者さんが食べ残したとしても、「あとでスタッフがおいしくいただきました」となるか、捨てられてしまいます。

本日の「やってはいけない話」は、この「消えもの」の話です。
「消えもの」を軽く見ると、現場でタイヘンなことが起きるかも...down

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それは、ロンドンの「ラーメンショップ」という設定の撮影現場のことでした。 割と高級な店ということで、タイ料理のお店を借り切っての撮影です。主人公が自分の雇い主と、ラーメンをすすりながら打ち合わせをするという設定だったかな。ちょっと変わった設定ですね。

いまでこそ、ロンドンでも「ラーメン」は、ポピュラーな食べものですが、当時はそちらこちらで食べられるものではありませんでした。そこで、私はロンドンで完璧な「ラーメン」を用意することに、全勢力をそそいでいたのです。

他のスタッフとともに、撮影現場から数キロ離れた「ラーメンショップ(日本人の経営)」から、ラーメンどんぶり、シナチク、麺、スープ、ナルト、焼き豚やらを、一揃いゆずっていただき、美術車で大輸送を敢行しました。タイ料理のお店の厨房で再調理して、さてっと、準備万端そろいましたね、やっとこれで大丈夫かな、と気をゆるめた瞬間。カントクから、するどいご質問が来ました。

「ササキちゃん、エキストラが食べるものは? どうしたの?」

あれー。そうだ、この「ラーメン・ショップ」では、主人公以外にも、4〜5組のエキストラがいて、彼らも同じように食事をしているという設定だった。

私は主人公が食べるラーメンに集中するあまり、彼らのことを忘れておりましたよ。どうしよう。 現場のタイ料理レストランで、厨房に問い合わせても、今日は撮影で貸しきりなので、海老せんべいしかありません。

しかたないなあ、エキストラのみなさんには、みな海老せんべいを食べておいてもらったのですが、カントクからは、ちょっとだけ叱られました。なんで、このお店では、みーんな海老せんべいばかりを食べてるの〜?…

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この話の教訓です:

食堂、レストランなどで、エキストラがいるということは、彼らもまた何かを食べたり飲んだりしているということなのです。例えカントクから、具体的な「消えもの」の発注がなくとも、そこはこちらで予想して用意しておかなければならないのです。

また、少なくとも助監督と美術スタッフとの間で、このへんの細かいチェックは、常にしていかないといけないのです。普段、これを専門にしている「美術進行さん」ならば、心得ていることでも、にわか担当の私には、越えられないハードルでした。

カントク、ごめんね!

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「我が大草原の母」ストーリーのつづきです

1960年頃に中国で起こった飢饉の際に、孤児となってしまった3,000人の子供たち。この時に、内モンゴルの人々は無償の愛の手をさしのべて、彼らの命を救ったのです。この映画の主人公シリンフは、孤児として一緒に育った妹とともに、モンゴルの草原で育てられます。 そして30年後。養母チチグマの深い愛に包まれて、頑強な牧夫に成長しました。

そのシリンフのもとに、上海に住む実の両親からの知らせが届きます。気が進まないまま、両親と会いに行くシリンフ。しかし、かつてあんなに求めていた実母への思いは、既に枯れてしまっていた。 モンゴルへ帰るシリンフに「せめて食べていって」と出されたものが、大きな器に盛られたリンゴでした。おそらく日本から輸入された、高級品種なのかと思います。

災害による飢餓のため、泣く泣く捨ててしまった息子への想い。その想いがこめられた林檎を親子三人で無言で食べる。 この林檎は、映画に登場する小道具の中でひときわ印象深いものでした。

良い映画というものは、消えものや小道具の使い方も、とても上手ですね。



ブログ担当:コンテンツ創作コース・佐々木和郎

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