« 2014社会情報学会 | トップページ | おもしろメディア学 第38話 ヘリウム音声 »

おもしろメディア学 第37話 描ていない形がみえる? 

2014年10月 7日 (火) 投稿者: コンテンツ創作コース

描いていない図がみえると言ったら、「ウソ!」っていわれそうですね。でもこれはホントのことです。
図1はpacmanといわれるゲームのキャラクターに似ていますね。円の一部が欠けている形です。

Packman_2

                      図1 円の一部が欠けている図形
これを3つ使って、図2のように配置します。3つの図形を配置しただけですが、何か別の形が見えていませんか? そうです。三角形がみえています。これは視覚心理学で、「主観的輪郭線」といわれる知覚です。描いていない形を人が見ることができるということはこのように本当なのです。
 

Sankakukei1

                  図2 3つの図形から見えるもの
このことを利用して描いた画像を図3に示します。最初の図は目、鼻、口を書いています。顔の白い部分は輪郭線も何も描いていません。順番に黒いからだの部分、耳を加えていきます。そうすると、次第に顔の輪郭が見えています。輪郭を「描いていないにもかかわらず見える」ということを理解していただけましたでしょうか? このような主観的輪郭線の見え方を利用してさまざまなデザインが行われているということから、認知科学や視覚心理学を学ぶことがデザインにもたいせつなことなのです。
 

P1

P2

P3

P4

P5

 
                                         図3パンダの顔が浮かび上がる?
さて、立体視のことをブログ記事に書きましたが、この立体視も不思議なことに、書いていないものがみえるのです。この記事でも紹介した3つの同心円を立体視したとき、何か気が付きませんでしたか?単に、3つの円が空間に浮かんでいるだけではなく、円錐台として面も理解できます。いかがでしょうか?
立体視したときに、描いていないにもかかわらず、空間に面がみえることがあります。図は、ランプのガラスの部分を示しています。これを立体視すると、回転体の底面と上面には円が書かれているので、空間に円があるように見えます。そこで、中央付近をみてください。輪郭の2本の線があります。これで空間をみるとどうでしょうか?回転体のふくらみは見ることができません。やはり、手助けになるように面をきちんとく必要があるのでしょうか? 手助けになるような線を図のように入れると、不思議なことに、全体のふくらみが見えてきます。上部は円柱にみえています。下部のふくらみは球のふくらみのように見えています。
2次元図形の主観的輪郭は、3次元的な空間でも同じように起こることが分かっています。図に立体視のランプ線画を示します。これを立体視すると、上下の部分の円が空間的な広がりを持っているように見えますが、上の方は平面的な感じを受けます。中央付近の形状のふくらみは感じ取ることができません。

Lamp01

                図4 輪郭線による立体視図
この図4に、1,2本の線を書き込むと図5のようになります。これを立体視すると不思議と、全体の空間的なふくらみがみえてきます。

Lamp02

                図5 面の上に線を描いた立体視図
何も描かれていない部分も面の形状が理解できるくらいに膨らんで見えます。2次元図形における「線」に対して3次元図形における「輪郭」は、「面」といえます。このことは筆者が1982年に出版した文献(1)で例を示していますが、1995年に、Japan QiZhang(張 琪) らによって、詳細に分析されて、パントマイム効果と名付けられています。
このような図形や形の認知は、図によって情報を伝達したり、デザインしたりするうえでとても重要なことです。表示技術や装置が発展してきた現在でも、人の視覚を理解して、うまく「表現すること」に生かしていくことが望まれます。
付録:
つい最近、Twitterに投稿されていた記事に矢印がいっぱいの画像がありました。この画像をみて、なにか分かりますか? わからなければ、どなたかに助けてもらうといいですね。
キーワード:主観的輪郭、図と地、デザイン、立体視、空間的ふくらみ、パントマイム効果
参考文献
(1) 近藤邦雄、田嶋太郎、モダングラフィックス、コロナ社、1982
(2) 近藤邦雄,田嶋太郎, 肉眼立体視の手引き, 日本図学会, 図学研究27号 1980.9
(3) 近藤邦雄, 田嶋太郎, 肉眼立体視に関する実験, 日本図学会, 図学研究28号1981.3
(4) Japan QiZhang, Masanori Idesawa, Yutaka Sakaguchi, Pantomime Effect in the perception of 3-DIllusory Transparent Object, Proceedings of Annual Conference of Japanese Neural Network Society, Vol. 6, pp.293-294,Sendai, 1995
執筆:近藤邦雄

おもしろメディア学」カテゴリの記事

« 2014社会情報学会 | トップページ | おもしろメディア学 第38話 ヘリウム音声 »