« おもしろメディア学 第38話 ヘリウム音声 | トップページ | おもしろメディア学 第40話 肉眼立体視による間違いさがしの答えを紹介 »

おもしろメディア学 第39話 3Dプリンターとデジタルモデリングの展開

2014年10月 9日 (木) 投稿者: コンテンツ創作コース

3Dプリンターの発明は、日本人によるものです。といっても、「3Dプリンター」と名付けたわけではありません。現在販売されている装置の基本的な考えを提案しコンピュータ制御による積層立体を制作する装置を制作しました。1981年に名古屋市工業研究所の研究員であった小出秀男氏による研究成果[1]が電子通信学会論文誌に公開されました。
現在、製造業だけでなくさまざまな分野で大きな変革をもたらすのではないかといわれている基本的なアイデアを日本人が提案していたのです。1987年5月20日の朝日新聞には、「立体図形から実物模型ハイッ」という記事が書かれており、大阪府立工業技術研究所の丸谷洋二氏らの研究成果が紹介されました。図1が1987年5月20日-朝日新聞の記事に掲載されました。基本アイデアは現在も変わっていないことが分かります。

3dprinter

図1 「立体図形から実物模型」1987年5月20日-朝日新聞の記事より
私が最初に積層造形装置を利用したのは、1998年です。ラピッドプロトタイピングの機器が埼玉県産業技術総合研究所で使われており、CADとその活用に関して共同研究をしていたときです。コンピュータ支援設計(CAD, Computer Aided Design)によってさまざまな形状をデジタルデータとして作ることができます。そして、3Dプリンターを使えば、清潔で早く試作品ができるということでした。しかし、実際に製作をしても見ると、制作時間はかかるし、モデル制作後には、モデルを洗ったり、サポートと呼ばれている部分を取り除いたりすることをしなければいけませんでした。現在の機器では、いろいろな材料があり、かなり使いやすくなっていますが、利用目的によって使えるかどうかは変わってきます。
図は3DCGソフトウエアのサンプルモデルをモデル化した例とそれをもとに鋳物を製作した例です。ラピッドプロトタイピング下3次元モデルは形状を確認するサンプルとして利用して、実際の製品は鋳物で制作するという工程を検討することを行ったのです。

Pen

                                図2 ボールペンの形状評価と製品の比較 

Tiger

                                    図3 サンプルモデルの出力例
その後、1999年にコンピュータグラフィックスでの国際会議に参加したときに、工業分野や医療分野だけでなく、エンターテインメント分野にも活用が進みそうであることが分かりました。展示会で見たいくつかの例を図に示します。私も展示会場で顔の形状を計測してもらい、そのモデルとデータを帰国後もらうことができました。データだけでなく、アメリカからモデル自身を郵送してくるくらい宣伝に力を入れていたともいえます。

P8110050

P8110052

図4  SIGGRAPHの展示物
日本図学会は、10年くらいまえから、このデジタル技術を利用したモデリングの普及を視野に入れて、デジタルコンテストを実施しています(ブログ記事)。2014年の今年で第8回になります。3Dプリンターを活用するデジタルモデリングンは従来では加工しにくい、加工できないというモデルも一体成型技術によって実現しています。このコンテストの受賞作品をもとに、3Dプリンターを利用して制作するモデルの可能性について紹介します。このような例をみると、部品を作っておいてから、後で組み立てるということが難しい一体成型をしている例があります。これは従来の加工機器では作ることが難しいといえます。
   

Awardjsgs

図5 日本図学会デジタルモデリングコンテストの受賞作品
   Design By Box 安藤直見 柴田晃宏
三角柱をひねったガラガラ 小柳久佐
hexagon 今井久嗣
Leonardo da Vinciのアイデアをもとにした羽ばたき機械模型 牧園 将大, 竹之内 和樹 
メディア学部でもこのブログの記事などで紹介されたように、3Dプリンターを利用した演習を太田高志先生らが実施しています(ブログ記事)。またいくつかの研究室では、研究のために3Dプリンターを使っています。大学院生の村瀬健君はデフォルメキャラクターの制作に関する研究を進めています。彼がオープンキャンパスで展示したデフォルメキャラクターと3Dプリンターを図6に示します。
http://blog.media.teu.ac.jp/2014/07/3d-e737.html
  

Dsc_6526

Dsc_6459

図6 3Dプリンターとデフォルメキャラクター
機器が高額であったときは、医療や工業分野の応用が中心でしたが、安価な機器が普及したことから、今後は3DCGの応用としてさまざまな活用が見込まれています。そのためにもメディア学部の学生にはコンピュータ制御の加工技術である3Dプリンターで制作できる形状の特徴を把握して、新しい挑戦をしてほしいです。
キーワード: 3DCG,3Dプリンター、デジタルモデリング、日本図学会
参考文献
(1) 小出秀男,3次元情報の表示法としての立体形状自動作成法, 電子通信学会論文誌Vol.J64-C No.4 pp.237-241 1981年4月
http://search.ieice.org/bin/summary.php?id=j64-c_4_237&category=C&year=1981&lang=J&abst=
(2) 近藤邦雄,佐藤尚,町田芳明,増田伸二,星野 伸行,デジタルモデリングによる3次元立体の復元と複製,日本図学会, 図学研究,Vol.35,No.2, pp.7-11,2001.6
(3) KONDO Kunio, Song Genwang, Hisashi SATO, Yoshiaki Machida, Shinji Masuda, Nobuyuki Hoshino Digital Modeling in CAD Engineering Course at the Department of Computer Science Proceedings of the 5th Japan-China Joint Conference on Graphics Education, pp.116-121,2001.8
執筆:近藤邦雄

研究紹介」カテゴリの記事

おもしろメディア学」カテゴリの記事

« おもしろメディア学 第38話 ヘリウム音声 | トップページ | おもしろメディア学 第40話 肉眼立体視による間違いさがしの答えを紹介 »