映画館の座席のどこに座る?-臨場感と映像酔い-
2014年11月17日 (月) 投稿者: メディア技術コース
私達の視覚システムは一見単純に外界のものを「見ている」だけに思えますが、実は様々な補償機能が作動しています。経験でも分かるように、自分が普通に歩いて移動するとき、周りの景色を見ていて「酔って気分が悪くなった」という現象は起りません。これは我々の眼が
- 対象のある点を見ていることで映像がぶれない
- 自己が移動している場合には視覚情報からその感覚が付加される
- 視線の動きなどで、画面が「激しく動く」場合は、その映像は知覚されない。
という機能を有しているからです。
1.に関しては、自分の動作を考えると分かると思いますが、人は移動するときに移動方向を見ており、身体の揺れがそのまま知覚映像に反映されずに、眼球運動である程度クッション的な『手ぶれ補正』のような効果を生んでいます。
2.は視覚から生じる自分の身体運動感覚で、動きに関するバランス感覚が視覚で補填されることになります。大抵の映像酔いは、この『外界からの視覚刺激で生じる移動感覚』と『実際の身体感覚』のズレで生じる場合が多いようです。
この画面の動きで身体運動感覚が誘発される現象を『自己運動感覚(ベクション)』といいます。いいかえると、これがいわゆる「映像の中にいるような『臨場感』」を生み出す元になっています。つまり大画面が目の前にあって、その映像が動くと自分の体が動いているように錯覚するワケです。
よくTVアニメなどの最初のお約束のテロップが出ますが、この「TVからなるべくはなれて部屋を明るくして…」という指示はこの「ベクション」の効果を軽減する意味もあります。
この感覚が生じるには視野のある一定以上の範囲を『動く画像』が占めている必要があります。ある実験では視野の中心部の20°以上を占めるとこの感覚が生じ始め、徐々に大きくなるという結果が得られています。これを日常のスケールに換算すると、映画館でスクリーンの横幅を1としたとき、スクリーンからの距離が2.8以内の場所に座れば、この『臨場感』が生じることになります。映画館で迫力を!と思う方はこれよりもスクリーンに近い位置に座ることをお勧めします。
3.はサッカード抑制といわれる状態で、我々が視線をあちこちに大きく動かす場合、視覚から入力される映像は『流れた』状態でブレるはずなのですが、そのブレた映像はブロックされて知覚されないことを指します。視線を動かすのではなく首を横に振って視線を左右に素早く動かしてみると、流れた映像が視覚に入るので、眼球運動の映像遮断機構はなかなかすぐれていることが分かります。
(文責:メディア学部『視聴覚情報処理の基礎』担当 永田)
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