おもしろメディア学 第67話 やってはいけない 第6話
2015年1月14日 (水) 投稿者: コンテンツ創作コース
今日の「やってはいけない」は、「ジョウロ」の話です。
その日は「雨降らし」の撮影でした。ドラマの脚本のト書きには、ときどき「雨」の指定が書かれていることがあります。主人公が、雨に濡れて走ったりするとなにか悲壮感にあふれた感動的なシーン。どうしても雨が降っていたいという場合がある。
また、単純に撮影の都合でそうなることもあります。ひとつ前のシーンで、撮影時に不幸にして雨が降っていた場合。「シーンのつながり」の問題のため、次のシーンでも、人工的に雨を降らせなければならなくなる。
いまはCGも発達しているので、ポストプロダクションで「人工的に雨を足す」ことも可能。それでも、やはり本物の役者さんが演技している以上、ご本人のまわりだけは、実際に雨にぬれる感じが必要になります。CGだけでは、衣装がぬれたり、髪の毛がぬれたりという表現は難しい。
さてその日の撮影です。ロンドン郊外の、とあるパブの前の通り。かなりのロングショット(広い範囲が映る画角)もあって、その日は大量の「人工雨」が必要だった。しかもナイトシーンです。これは本当に大掛かりな撮影です。広い範囲で雨を降らせるので沢山の水が必要だし、それを降らせるスタッフも沢山いる。そしてさらに、雨を映像に映すために、大量のライトも必要になるのです。ナイトシーンで暗い状態のまま、どんなに人工の雨を降らせても、光が当たらなければ雨は見えないのです。
こういう時は、さすがはロンドンの撮影隊。なんとタンクローリー車を装備した、プロの「特殊効果チーム」がやってくるのです。日本ですと、近隣の家などから水道の蛇口を借りて、長いホースをひいて降らせたりするのです。
「さすがは映画の本場ですな」なんて言っていたら、この日に限ってこの「特殊効果チーム」が、なかなかやってこない。どこかで渋滞に巻き込まれているとのこと。照明チームもカメラも、もちろん役者さんも完全にスタンバっているのに、「雨」だけがない。「特殊効果」に責任のある、美術担当の私は焦り始めた。周りのスタッフがイライラしているのが伝わってくる。どうしよう!
その時、助監督が、ある「名案」を思いついた。とりあえず、手近にあるジョウロを使って、周辺の地面を濡らそう。そうすれば、とりあえず、雨に濡れている感じに見えるし、限定的なショットだけなら撮影できるかもしれない。さっそく何人かのスタッフが、ジョウロ集めに走る。隣近所から三つくらい手に入ったので、早速地面の水撒き作業を開始!
ところが、これを見ていたイギリス人スタッフが黙ってはいなかった。口々に「「オー・マイ・ガー!(なんてこった)」と騒いでいるではないか。なにかまずい事が起こっている。一体何がいけないのだろうか。
その騒ぎのあとですぐに教えてもらったのだが、実はこのとき、私たち日本人スタッフは、現地映像界の規則を破っていたのである。
イギリスの映像スタッフは、それぞれの職能ごとにみな「ユニオン」に属している。カメラマンにはカメラマンのユニオンがり、特殊効果の仕事にもユニオンがあるらしい。ユニオンに属している人は、そこでの仕事を守られているのであり、部外者はその仕事をしてはいけないのである。ジョウロを持った私たちは、知らないうちに、特殊効果さんたちの仕事を横取りしてしまったのであり、これはイギリスでは大変なことなのだ。
その時ちょうど、タンクローリーに乗った「特殊効果」チームが到着して事なきを得たのでよかったけど、もしもあのまま日本人スタッフが、ジョウロで地面を濡らし、はては、ホースを借りて雨を降らしでもしていたらどうなったのだろうか。まさか、訴えられはしないだろうが、いろいろと問題を残した事だろう。ほんとに大きな騒ぎに発展しなくて良かったと思う。
- - - - - - - - - - - - - - - - - - - -
今日の教訓です
郷に入れば郷に従え。初めての土地で撮影する時は、その土地でのルールをよく調べておきましょう。撮影クルーの「マインド」自体は、インターナショナルに通じます。でも、いろいろと細かいルールが違っていて、撮影当日になって、驚かされることも多いです。日本人にとって当たり前でも、イギリス人には「目が点」になるようなこともあるようです。
イギリス人クルーにとっては当然の「アフタヌーンティー」というのにも、悩まされました。せっかく撮影が快調で、乗ってきているのに。午後2時3時ともなると、イギリス人は「お茶とクッキーの休憩」がないと、機嫌悪くなるのです。これには、かのスタンリー・キューブリック監督も悩まされたとの逸話が残っております。
本記事は、コンテンツ創作コース・佐々木和郎が担当しました。
「コンテンツ」カテゴリの記事
- あにめたまご2019「文化庁若手アニメータ等人材育成事業」(2019.03.12)
- 学会紹介:ADADA Japan学術大会と情報処理学会EC2019(2019.03.09)
- 大学院授業:プロシージャルアニメーション特論の紹介(2019.03.08)
- ゲームの学会?!(2019.03.07)
- 香港理工大学デザイン学部の紹介(2019.03.04)
「在学生向け」カテゴリの記事
- チュラロンコン大学からのインターン学生との再会(2019.03.14)
- あにめたまご2019「文化庁若手アニメータ等人材育成事業」(2019.03.12)
- タイの提携校、キンモンクット大学トンブリに短期訪問しませんか?(2019.03.11)
- 学会紹介:ADADA Japan学術大会と情報処理学会EC2019(2019.03.09)
- 大学院授業:プロシージャルアニメーション特論の紹介(2019.03.08)
「広報」カテゴリの記事
- あにめたまご2019「文化庁若手アニメータ等人材育成事業」(2019.03.12)
- メディア学部の提携校である香港城市大学への訪問(2019.02.27)
- 日本テレビ「世界一受けたい授業」(2/23放送)での講義!(2019.02.10)
- Global Game Jam 2019 最終発表(2019.01.29)
- Global Game Jam 2019 β版発表(2019.01.27)
「社会」カテゴリの記事
- あにめたまご2019「文化庁若手アニメータ等人材育成事業」(2019.03.12)
- ランニングマシンもインタラクティブな時代に(2019.03.02)
- 「2018年の日本の広告費」発表。インターネット広告費は5年連続で2ケタ成長!(メディア学部 藤崎実)(2019.03.01)
- メディア学部植前尚貴さんが「八王子学生CMコンテスト」で最優秀賞。受賞式レポート!(メディア学部 藤崎実)(2019.02.15)
- 軽部学長とともにメディア学部植前尚貴くんが大学コンソーシアム八王子主催設立10週年記念シンポジウムに参加(2019.02.08)
「高校生向け」カテゴリの記事
- チュラロンコン大学からのインターン学生との再会(2019.03.14)
- 大学院授業:プロシージャルアニメーション特論の紹介(2019.03.08)
- ゲームの学会?!(2019.03.07)
- 香港理工大学デザイン学部の紹介(2019.03.04)
- 香港理工大学デザイン学部を訪問し、学部長Lee先生にお会いしました!(2019.03.03)
「おもしろメディア学」カテゴリの記事
- 【研究紹介】お城を数値で作り上げる!:日本城郭のプロシージャルモデリング(2019.01.22)
- 【研究紹介】プロジェクションマッピングはエンタメだけじゃない!プロジェクションマッピングによる動作支援(2019.01.15)
- 高大連携企画・映像制作ワークショップを開催しました(2019.01.14)
- 【再掲】世にも恐ろしい本当にあった話...(からぁ~の,エール!)(2019.01.09)
- 【研究紹介】”匂い”で季節感を感じさせることはできるか?(2019.01.06)