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おもしろメディア学 第67話 やってはいけない 第6話

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Joro

今日の「やってはいけない」は、「ジョウロ」の話です。

その日は「雨降らし」の撮影でした。ドラマの脚本のト書きには、ときどき「雨」の指定が書かれていることがあります。主人公が、雨に濡れて走ったりするとなにか悲壮感にあふれた感動的なシーン。どうしても雨が降っていたいという場合がある。

また、単純に撮影の都合でそうなることもあります。ひとつ前のシーンで、撮影時に不幸にして雨が降っていた場合。「シーンのつながり」の問題のため、次のシーンでも、人工的に雨を降らせなければならなくなる。

いまはCGも発達しているので、ポストプロダクションで「人工的に雨を足す」ことも可能。それでも、やはり本物の役者さんが演技している以上、ご本人のまわりだけは、実際に雨にぬれる感じが必要になります。CGだけでは、衣装がぬれたり、髪の毛がぬれたりという表現は難しい。

さてその日の撮影です。ロンドン郊外の、とあるパブの前の通り。かなりのロングショット(広い範囲が映る画角)もあって、その日は大量の「人工雨」が必要だった。しかもナイトシーンです。これは本当に大掛かりな撮影です。広い範囲で雨を降らせるので沢山の水が必要だし、それを降らせるスタッフも沢山いる。そしてさらに、雨を映像に映すために、大量のライトも必要になるのです。ナイトシーンで暗い状態のまま、どんなに人工の雨を降らせても、光が当たらなければ雨は見えないのです。

こういう時は、さすがはロンドンの撮影隊。なんとタンクローリー車を装備した、プロの「特殊効果チーム」がやってくるのです。日本ですと、近隣の家などから水道の蛇口を借りて、長いホースをひいて降らせたりするのです。

「さすがは映画の本場ですな」なんて言っていたら、この日に限ってこの「特殊効果チーム」が、なかなかやってこない。どこかで渋滞に巻き込まれているとのこと。照明チームもカメラも、もちろん役者さんも完全にスタンバっているのに、「雨」だけがない。「特殊効果」に責任のある、美術担当の私は焦り始めた。周りのスタッフがイライラしているのが伝わってくる。どうしよう!

その時、助監督が、ある「名案」を思いついた。とりあえず、手近にあるジョウロを使って、周辺の地面を濡らそう。そうすれば、とりあえず、雨に濡れている感じに見えるし、限定的なショットだけなら撮影できるかもしれない。さっそく何人かのスタッフが、ジョウロ集めに走る。隣近所から三つくらい手に入ったので、早速地面の水撒き作業を開始!

ところが、これを見ていたイギリス人スタッフが黙ってはいなかった。口々に「「オー・マイ・ガー!(なんてこった)」と騒いでいるではないか。なにかまずい事が起こっている。一体何がいけないのだろうか。

その騒ぎのあとですぐに教えてもらったのだが、実はこのとき、私たち日本人スタッフは、現地映像界の規則を破っていたのである。

イギリスの映像スタッフは、それぞれの職能ごとにみな「ユニオン」に属している。カメラマンにはカメラマンのユニオンがり、特殊効果の仕事にもユニオンがあるらしい。ユニオンに属している人は、そこでの仕事を守られているのであり、部外者はその仕事をしてはいけないのである。ジョウロを持った私たちは、知らないうちに、特殊効果さんたちの仕事を横取りしてしまったのであり、これはイギリスでは大変なことなのだ。

その時ちょうど、タンクローリーに乗った「特殊効果」チームが到着して事なきを得たのでよかったけど、もしもあのまま日本人スタッフが、ジョウロで地面を濡らし、はては、ホースを借りて雨を降らしでもしていたらどうなったのだろうか。まさか、訴えられはしないだろうが、いろいろと問題を残した事だろう。ほんとに大きな騒ぎに発展しなくて良かったと思う。

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今日の教訓です

郷に入れば郷に従え。初めての土地で撮影する時は、その土地でのルールをよく調べておきましょう。撮影クルーの「マインド」自体は、インターナショナルに通じます。でも、いろいろと細かいルールが違っていて、撮影当日になって、驚かされることも多いです。日本人にとって当たり前でも、イギリス人には「目が点」になるようなこともあるようです。

イギリス人クルーにとっては当然の「アフタヌーンティー」というのにも、悩まされました。せっかく撮影が快調で、乗ってきているのに。午後2時3時ともなると、イギリス人は「お茶とクッキーの休憩」がないと、機嫌悪くなるのです。これには、かのスタンリー・キューブリック監督も悩まされたとの逸話が残っております。

本記事は、コンテンツ創作コース・佐々木和郎が担当しました。

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