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おもしろメディア学 第83話 学校での勉強は役に立つのか?

2015年5月27日 (水) 投稿者: メディア技術コース

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今回は、ちょっと大きなテーマで記事を書こうと思います。

私は高校生のとき、数学の問題を解くのが好きでした。しかし、それは単純にゲームをクリアする感覚に近いものであり、それが将来の自分にどのように役に立つかは、あまり意識することはできませんでした。

私の高校生時代、ある日の数学の授業の中で、やや反抗的な生徒であったクラスメートが数学の先生にこんな発言をしました。「先生、この2次方程式の実数解の個数ってのは、卒業してから何に使うんだ?」
なるほど確かに!実数解の個数は高校数学の中でもかなり頻繁に解かされる問題の一つですが、それが2個なのか1個なのかそれともないのかがわかることが、何の役に立つんでしょうか?私は先生が一体どのような返答をするのかを興味深く期待しました。しかし、それに対する先生の返答は「いい大学に入るためだ。」というものでした。これにかなり幻滅してしまったことを今でもよく思い出します。

2次方程式は、物体が落下する放物線となりますので、まだ分野によっては重要となるであろうことは想像できたのです。しかし、3次方程式となるともう何の役に立つのか想像もできませんでした。これこそ本当に、入試問題を解くためだけに存在するのではと思ったものでした。

大学に入学し、大学2年の CG の授業で曲線のことを習いました。コンピュータのフォント(文字の形)を表す曲線の一つに Bezier 曲線というものがあるのですが、この数式を見て驚きました。

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まさかの 3次式! こんなに早い段階で高校時代の疑問に解答が出るとは。

また、ゲームプログラムを作成しているときに、2つの動いている物体が途中で衝突するかどうかを判定する必要が生じました。この方法なのですが、物体 P が Ps から Pe、Q が Qs から Qe へ移動するとしたとき、

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という2次方程式の解の個数が、「2 の場合衝突する」、「1 の場合は掠(かす)る」、「0 の場合衝突しない」というものでした。あぁこういうところで実数解の個数が役立つのねと感心してしまいました。

私がこの記事で述べたい主旨は、「数学は大事だ」ということではありません。確かに数学は大事なのですが、本当に誰もが習ったことが役立つかと言われれば、大部分の人は卒業してから二度と2次方程式や3次式を扱うことはないと思います。

それよりも重要なのは「何かを勉強している時点では、それが役立つかどうかを判断することは不可能」ということです。日本では小2のときに掛け算を習いますし、九九のマスターは誰もが苦労しますが、しかし掛け算ができないとどれだけ困るのかということは小2の時点ではわかりません。試験のために勉強してその先に使うことはないだろうと思っていたことが、思わぬ場面で役立つという経験は私にも山ほどあります。

学生の中には、習っていることに対し「自分は将来こんなこと絶対使わない、役立たない」と決めつけてしまう人を見かけます。苦手な分野に拒絶感を持つのはよく理解できますが、役立たないと切り捨ててしまうのはとてももったいないことに思います。単純に、将来の可能性を狭めてしまっているわけです。子供の時に嫌いだった食べ物が、大人になってとても美味しく感じることがあるように、勉強にも将来で大きな意味を持つことがあります。今は苦手なままでも構わないと思いますが、「自分はそういう分野とは関係ないのだ」と決めつけてしまうよりも、「そういう考え方もあるんだな」と記憶の片隅に入れておく方が、ずっと世界の理解が広がるのではと、そんな風に考えてみるのはどうでしょう。


(メディア学部講師 渡辺大地)

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