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1÷1=?(その2)

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今回は、前回の「面白メディア学入門:1÷1=?」で紹介したAADLの割り算、要素商をもう少し拡張して考えてみよう。

掛け算である要素積と割り算である要素商は、(数値部0での割り算は定義されないことを除き)実装上は同等である。しかし、要素商の方が実務上遥かに幅の広い解釈が可能である。割り算は解釈上「比率」を計算することに相当するが、経済取引データに限っても、分析視点に応じて多様な経済指標を(すでに存在するものだけでなく新たに)考案することが可能である。例えば次の例を考えてみよう。

問 ある人の201551ヶ月間の消費実績は、以下の通りである。この人の、エンゲル係数を計算してみよう。

消費額データ

= 10<家賃, 万円, Y2015M05>

+ 7<食費, 万円, Y2015M05>

+ 2<水道・光熱費, 万円, Y2015M05>

+ 1<教養娯楽費, 万円, Y2015M05>

 

エンゲル係数は、周知のように消費支出額に占める食費の割合である。そこでまず、この人の消費支出額を求めてみよう。消費支出額は、各消費支出項目の合計で求められるから、上記の消費額データの名称(name)基底を、それぞれ「消費支出額」に振替変換すれば良い。

消費支出額データ

= 10<消費支出額, 万円, Y2015M05>

+ 7<消費支出額, 万円, Y2015M05>

+ 2<消費支出額, 万円, Y2015M05>

+ 1<消費支出額, 万円, Y2015M05>

= 20<消費支出額,万円, Y2015M05>

上記消費支出額データの4つの交換代数元の各名称基底はいずれも「消費支出額」で同一であるので合計額が計算されている点に注意しよう。足し算、要素積、要素商、いずれの演算であっても、同一基底間で定義される共通の演算規則である。

次に、消費額データの第2項と消費支出額データの交換代数元に対して、名称基底を

食費→エンゲル係数

消費支出額→エンゲル係数

単位基底を、

万円→%

にそれぞれ振替変換を行えば、

消費額データ

= 10<家賃, 万円, Y2015M05>

+ 7<エンゲル係数, , Y2015M05>

+ 2<水道・光熱費, 万円, Y2015M05>

+ 1<教養娯楽費, 万円, Y2015M05>

消費支出額データ

= 20<エンゲル係数, , Y2015M05>

となるので、両者の要素商によって、

消費額データ÷消費支出額データ×100

= 7<エンゲル係数, , Y2015M05>

/ 20<エンゲル係数, , Y2015M05>*100

= 35<エンゲル係数, , Y2015M05>

と計算できる。ここでも、同一の基底を持つ交換代数元同士でのみ演算が定義されている点に注意しよう。すなわち、消費額データの交換代数元のうち、家賃、水道・光熱費、教養娯楽費に関しては、要素商では(基底が異なるので)演算自体が定義されない。もしこれらの消費費目に対しても消費総額に対する比率を求めたければ、例えば、

教養娯楽費→教養娯楽費・消費支出額比率

消費支出額→教養娯楽費・消費支出額比率

のように指標を定義した上で、振替変換してやれば良い。

さて、企業内においては、実物・金融取引およびその結果蓄積された資産、負債、資本等に関するすべてのデータは、会計上の規則によって、勘定科目と呼ばれる項目に分類・集計し、管理されている。これらの多種多様な勘定科目間の比率を定義し、当該企業の経営状況を分析する方法が財務指標分析である。

例えば、売上高に体する各種の利益の割合は、当該企業の利幅を表す売上高利益率(売上高営業利益率、売上高当期純利益率等)である。また、純資産の残高に対する当期純利益の割合は、自己資本当期利益率:ROEと呼ばれ、株主の出資した資金から、どれだけの(配当原資となる)利益が期待できるか、投資のための収益率の指標として利用される。さらに、流動資産の残高を流動負債の残高で割った比率は流動比率と呼ばれる指標で、1年以内に返済期限のくる借入金等の負債(流動負債)に対して、すぐに換金可能な資産(流動資産)をどれだけ持ち合わせているか、当該企業の短期の支払い能力をみるための指標である。

このように、フロー、ストックそれぞれに属する勘定科目間の比率を計算することで、企業の経営状況を多方面から診断することが可能である。このような財務指標には、既に実務の世界で標準的に用いられているものから、特殊な分析の視点から独自に定義することも可能である。例えば、上に紹介した、自己資本当期利益率:ROEは、米国デュポン社の開発した、


に展開することができる。この展開式をデュポン方式というが、今や世界中で利用されている財務指標である。

以上に例をあげたものも含め、すべての財務指標は、振替変換を行いながら要素商を利用すれば、簡単に、かつ大量のデータからも一気に計算できる。エンゲル係数の例を参考に考えてみてほしい。

(メディア学部 榊俊吾)

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