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1年次「音楽入門」の授業内容紹介(リズム編)

2015年6月 9日 (火) 投稿者: メディアコンテンツコース

 みなさん、こんにちは! 本日は、私が担当している1年次の「音楽入門」の授業内容の一端をご紹介しましょう。

 この授業では、楽譜の読み方・書き方のほか、基礎的な音楽理論を理解する上で必要となる知識をまとめた「楽典」と呼ばれるものを学びます。具体的には、「音楽の三要素」と呼ばれる「メロディ」「ハーモニー」「リズム」を中心として、それらがどのような仕組みで成り立ち、互いに関連し合って楽曲を構成しているのかを、さまざまな音楽を通して理解できるようになることを目指します。楽典が網羅する内容は幅広いのですが、「五線と音符」「拍子とリズム」「音程」「音階」「和音」といった項目を軸に、クラシック、ジャズ、ロック、J-POP、民族音楽、現代音楽…などなど、古今東西いろいろなジャンルやスタイルの音楽を取り上げます。

 先日はリズムについて講義したのですが、その中でも「シンコペーション」という技法を紹介しました。シンコペーションとは「リズムのアクセントの位置が弱拍や拍の弱部に移動すること」、あるいはそのようになっている状態のことを指します。これを理解するには、まず「拍子」がどのようなものであるかを知る必要があります。

 例えば4拍子は、各拍が「強」「弱」「中強」「弱」の強さ(重さ)をもち、その4つの拍が「強−弱−中強−弱」と連なりつつ繰り返されることで「4拍子」という拍子を確立します。3拍子であれば「強−弱−弱」「強−弱−弱」…、2拍子であれば「強−弱」「強−弱」…の拍子構造をもちます。ここで注意したいのは、拍子の強弱は「音の強さ(大きさ)」ではないということです。どの拍子も1拍目が「強」ですが、ここで鳴る音が大きいとは限りません(もちろん、そういう曲もありますが)。

 指揮者の指揮棒の振り方を見ればイメージしやすいと思います。どの拍子でも基本的に1拍目の腕の動きは上から下に落ち、ある一点で跳ね返って上方に移動します。これは、高い場所から落下したボールが地面で跳ね返る一連の様相、つまり「自由落下運動」を模しています。また、腕を回して円を描く動作で、いちばん下に来たときに速度が最も速く、やがて少しずつ減速していちばん上を通り、再び加速して下を目指すような状態のものです(ジェットコースターを思い出しましょう)。このようにボールが地面で跳ね返る瞬間、あるいは加速・減速を繰り返す円運動における最も速いスピードで底部を通過する瞬間が、音楽の拍子での1拍目、つまり拍の「最強部」であり、最大の「重み」をもつ部分として位置づけられます。そして、その周期性の違いが拍子の違いを生み出すのです。

 さて、前置きが長くなりました。リズムの話に戻りましょう。下に示した楽譜は、4拍子で2拍ごとに和音が変化するピアノによる伴奏のフレーズです。演奏を聴いてみてください。

 演奏を聴く

Syncopationoff_6


 和音を構成しているそれぞれの音が4分音符で各拍に置かれ、安定したリズムで響きが推移していきます。ただ、単に拍に合わせて和音が変わっていくだけで動きが鈍重ですし、音楽的な面白さはあまり感じられないのではないでしょうか。

 そこで、今度はヘ音記号のベースラインはそのままに、ト音記号の和音のリズムを部分的に8分音符分、前にずらしてみました。具体的には、下の楽譜で「1・2・3・4」の各拍の裏拍(各拍の数字のあとに「と」と書かれている部分)のうち、赤文字になっているところに発音のポイント(アクセント)を移動させています。また楽譜中の赤い矢印は、先ほどの楽譜で置かれていた位置(黒色の縦線)から、より弱い拍への移動を示したものです。これらの点を踏まえて演奏を聴いてみてください。

 演奏を聴く

Syncopationon


 いかがでしょうか? ほんの数カ所、4拍子の各拍の裏拍に音が移動しただけで、フレーズのリズム感が躍動感のあるものに変わりましたね。これが「シンコペーション」の効果です。つまり、発音のポイントを弱い拍に置いて「弱い拍→強い拍」(ここでの「強弱」はあくまで相対的なものです)で鳴らされるフレーズは、前に「つんのめった」感じになり、いわゆる「ノリ」が良くなるのです。それとは逆に「強い拍→弱い拍」によるフレーズは、安定感のある落ち着いた感じになります。もちろん、テンポや音色によっても印象は変わりますし、実際の楽曲では他のパートのリズムとのコンビネーションも関係してくるので一概には言えませんが、「ノリのある音楽」にはリズムの面でシンコペーションの技法が盛り込まれていることが多いです。

 今、「ノリのある音楽」と言いましたが、音楽で生み出されている現象を単に感覚的にとらえるのではなく、それが何を目的にどのような方法によって実現されているのかを、この授業では具体的に説明していきます。そこから音楽における「構築性」の一端を知ることになるでしょうし、表現と技法との関係を捉え直すきっかけともなることでしょう。

 「音楽入門」という科目名から、履修者の多くはメディア学部で音楽・音響を専門に学ぼうとしている学生と思われるかもしれませんが、今期履修している180名ほどのうち、半数以上は音楽・音響以外の分野・領域が専門、あるいはこれから専門を決めようとする学生で占められています。ですから、いろいろな楽曲を紹介したり実演で示したりして、音楽についてあまり知らない履修者にも内容が理解しやすい授業を心がけています。

 音楽について幅広い視野をもつことは他の分野や領域の事象を考える上でも大きく役立つはずですし、そのような面から授業担当者として、音楽・音響を専門としない学生諸君も是非この授業を履修してほしいと考えています。一見、自身が希望する専門と関わりがないように思えて、社会に出ると意外といろいろな分野や領域とつながりをもつものです。メディア学部では、そのためのさまざまな「学びの場」が用意されています。

 それではまたお会いしましょう。


執筆:伊藤 謙一郎

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