専門演習「作曲演習」の紹介(第2弾)
2015年7月 3日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん、こんにちは。メディア学部の伊藤です。本日は、私が担当している専門演習「作曲演習」についてご紹介したいと思います。実は、ほぼ1年前にもこのブログに演習内容を書いています。ですので概要はこちらをご覧いただくとして、今回は具体的にどのようなことを行っているのか、詳しくお話ししたいと思います。
実は昨年度後期から、この演習での課題がちょっと変わりました。それまではメロディやリズムなど、音楽上のさまざまな要素におけるコントラスト(対比)を意識した楽曲を自由に作曲するものだったのですが、指定された数個の音をもとにしてメロディをつくり、そこから楽曲全体を構成することを課題としたのです。それは2年次の「音楽制作の基礎」という授業で、1つの音を出発点に、「モティーフ」と呼ばれるメロディの核となる短いフレーズから楽曲全体に至る音楽の構成について講義しているので、そこで学んだことを創作に結びつける場にしようと考えたからです。
また、学生全員が同じ素材(音の並び)を使いながらも、アイデア次第で多種多様な音楽を生み出すことができることを学生諸君に体験してもらいたいという願いもあります。これは、一つの食材から、アイデアと工夫によっていろいろな料理ができるのに似ていますね。美味しい料理をつくるには確かにスキルもテクニックも大切ですが、必ずそこには食材や調味料の吟味から料理の完成に至るまでのしかるべき「プロセス」や、そのための「思考」(こうしたらこういう味になるだろう…)があるはずです。単に既存の理論やハウツーに沿って「それらしいもの」をつくるのではなく、あるアイデアをいかにして形あるものにするか、その実現に向けた手順や方策を試行錯誤しながら考えていく過程を、より重視する方針としたのです。
さて、少し前になりますが、6月16日に中間の作品発表(音出し)が行なわれました。下の写真はそのときの様子です。
作曲した作品は、演習室前方に設置されているスピーカーで鳴らされます。それを聴きながら、学生たちは感想やアドヴァイスを講評シートに記入します(写真を見ると何人かの学生が前かがみになっていますが、シートにコメントを記入しているためで決して寝ている訳ではありません)。講評シートは後日公開されるので、まわりの人たちが自身の作品をどのように聴いたか知ることができ、さらに良い作品とするためにどのような点に配慮したらよいかも確認できるようになっています。また、楽曲の構成や表現の目的など作品のプランが書かれた用紙を各自の音出しの前にスクリーンに映し出し、教員が確認しながら説明を行います。右の写真が、ちょうどそのときの様子です。
このような形で今回もさまざまなスタイルの作品を聴くことができましたが、特に曲の前半で意表をつく展開をもつものが多く、どのように曲が進んでいくのかワクワクさせられました。中間課題の作品は30秒から60秒までの長さと規定されているので、非常に短い時間の中にまとめるのにはどの学生も苦労したようです。それでも、全体的にはしっかりとした構成をもった作品が多かったように感じました。
ではここで「作曲演習」での課題と曲作りについて、楽譜と音を交えながら説明しましょう。
先ほど「数個の音をもとにしてメロディをつくる」と書きましたが、昨年度後期は次のような「ミ−ソ−ド−シ」の4つの音からなる音列を「お題」としていました。
また、この音列とは別に、「リフ」「ハーモニー」「ベース」「ドラム」の4つのフレーズが用意されていて、どれか1つ(複数も可)は楽曲に必ず盛り込むことを必須としています。
【リフ】 【ハーモニー】
【ベース】 【ドラム】
昨年度の演習では、私もこの課題にもとづいてサンプル曲をつくってみました(使用した機材やソフトウェアは演習室とまったく同じもので、特別なエディットは行っていません)。
まず、先ほどの「ミ−ソ−ド−シ」の音列を冒頭に置き(赤色の音符部分)、次のようなフレーズを考え、「Aメロ」(曲の初めに現れるメロディ)としました。最初は跳躍して上行しますが(赤い矢印部分)、その後は下行する動きがメインとなり(青い矢印部分)、フレーズの終わりは「ミ」の音が延ばされて少し落ち着きます(黒い矢印部分)。このメロディは、シンセサイザーによる柔らかい音色で奏でられます。
次に、この「Aメロ」とコントラストをもった「Bメロ」をつくります。「Aメロ」は全体的に下行するフレーズが中心だったので、これとは逆に上行する動き(赤い矢印部分)をふんだんに盛り込むことにしました。その動きを引き立たせるために、下行するフレーズ(青い矢印部分)もわずかながら入れています。また、拍の頭に休符を置いて裏拍で音を鳴らすことで、「Aメロ」にはない「ノリ」を生み出しています。音色も「Aメロ」と対照的に、エレキギターのちょっとザラついたディストーションサウンドにしてみました。
用意されている4つの素材の中からは「リフ」を選びました。「リフ」とは「一定の反復フレーズ」のことで、音楽に動きをつけたりサウンドを充実させたりする役割をもちます。ここでは「Aメロ」の前の「イントロ」と「間奏」の中心的フレーズに用いられ、きらびやかな電子音が割り当てられています。
さて、このようなメロディやフレーズを使ってできたのが以下の曲です。あくまでサンプルということで1分15秒ほどにまとめており、「イントロ」「Aメロ」「Bメロ」「間奏」と続き、再び「Aメロ」が出てきたところでフェードアウトします。
お聴きになっていかがでしょうか? 「ミ−ソ−ド−シ」の音列を創作の出発点として、フュージョン風の曲に仕上げてみました。「Bメロ」ではストリングスが、さらに「間奏」ではブラスによる歯切れの良いリズミカルなパッセージも加わり、曲が始まってから徐々にサウンドに厚みが増していく流れがおわかりいただけると思います。個人的にはこのあとに、シンセかピアノによるアドリブを入れたいと考えているのですが…。
なお、このブログでは以前、「ソ−シ−ミ♭−ソ」の音列をもとに作曲した曲(これも授業のサンプル曲ですが…)を紹介しました。こちらもよろしければ聴いてみてください。
今期は、「ミ−ソ−ド−シ」とは異なる音列で学生たちは曲作りに励んでいます。期末の作品発表が今から楽しみです。
執筆:伊藤 謙一郎
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