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音の不思議な世界―「耳を開く」とは?―

2015年7月20日 (月) 投稿者: メディア技術コース

みなさんこんにちは。メディア学部助手の濱村です。

梅雨明けも近づき,段々と夏の気配がしてきましたね。八王子キャンパスは緑が豊かなので,季節毎に違った虫の音を聞くことができます。今回はそんなふとした音に「耳を開く」研究のお話です。

「サウンドスケープ」と聞いて,みなさんはなにを想像するでしょうか?英語の「ランドスケープ」に似ているなぁと気づいた方は鋭いですね。サウンドスケープ (Soundscape) はランドスケープが「ランド+スケープ」であるように,「サウンド (音)」に「スケープ (景観,風景)」をくっつけた造語で,日本語では「音風景」と表現されます。サウンドスケープの概念を提唱したカナダの音楽家,マリー・シェーファーは「鳴り響く森羅万象に耳を開け!」という言葉を使っています。これは,「周囲の音に興味を持ち,耳を傾ける」「世の中にあふれる音に気づいた上で,音によって作られる環境 (=音環境) をよりよいものにする」という考え方だと私は理解しています (サウンドスケープの理解や解釈の仕方は人それぞれなので,ぜひ調べてみてください)。サウンドスケープの中でも私は特に鳥の鳴き声なのどの自然環境音と呼ばれる音に人々の興味,関心を向ける,ということに感心を持ち,研究をしています。

私がサウンドスケープの研究を始めよう!と思ったのはちょうど音楽の圧縮技術が発達し,携帯電話 (今で言うガラケー) でMP3などの圧縮音源が聴けるようになった頃で,音楽が好きな私は毎日通学時に携帯電話で音楽を聴いていました。そしてある時,ふと「音楽を聴くようになってから,鳥の鳴き声などの自然環境音に気づきにくくなっていないか?」と気づきました。これをきっかけに,iPodやウォークマンなどの携帯型音楽プレイヤーによる音楽聴取が周りへの音への興味,関心にどのような影響を与えるか調べみよう!と考え,アンケート調査やフィールド調査を行ないました。

72名の大学生を対象に行なったアンケート調査の結果,鳥の鳴き声などの自然環境音を携帯型音楽プレイヤーを使って音楽を聴いているときに「うるさい」と感じている人が少なからず存在することが分かりました (図1)。自然環境音は「癒やし」や「リラックス」のためのCDとしても販売されるような,一般に好まれると思われる音です。このような音への興味,関心を失わせてしまうぐらいですから,音楽聴取によって人の声やアナウンスなど,必要な音までもが「うるさい,不快な音」と思われるようになってしまう可能性もあります。

Fig6

図1: 「携帯型音楽プレイヤー使用時に自然環境音をうるさいと思うか」の回答結果

実際に音楽を聴きながら外を歩いてもらうと,音楽によって聞き逃される音は「鳥の鳴き声」や「川の音」「風の音」などで,これらの音は「好きな音だ」と評価されていました。常に音楽を聴くことで,本来「好きな音」なはずである自然環境音を聞き逃し,それらの音に対する興味,関心を失うきっかけになってしまうのです。

現在ではスマホが普及したことで,私が研究したとき (5年前) よりも音楽の聴取頻度は上がっていると思います。機会があればもう一度調査をしてみたいと考えています。みなさんも,音楽ばかりではなく,自分の周りでどんな音が鳴っているか?に興味を持ってみてくださいね。

9月に開かれる日本心理学会のシンポジウムでも今回紹介した研究内容をベースに現代の音楽聴取についてお話しする予定です。会場は名古屋ですが,研究内容に興味のある方や,近くにお住まいの方は遊びに来てくださいね。

次回の研究紹介ではサウンドスケープの考え方の中でも「音環境をよりよくする」ことを目指す「音のデザイン」の研究についてお話しします。お楽しみに。

濱村

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