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専門演習「作曲演習」の紹介(第3弾)

2015年7月29日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース

 メディア学部の伊藤です。梅雨明けから連日、厳しい暑さが続いていますね。体調管理に気をつけて猛暑を乗り切りましょう。

 さて先日、専門演習「作曲演習」の期末の「音出し」(作品発表会)が無事に終わりました。今回は「ミ−ド−ソ−ファ」という4つの音列をもとにした作曲が課題でしたが、どの学生もうまく取り入れて魅力的な作品に仕上げていました。前回のブログでは演習の内容紹介と「音出し」の実施について書きましたので、今回は「音出し」後に学生が取り組む「楽曲データ」「レポート」「楽譜」の作成に関してお話ししたいと思います。

 これら3点は「音出し」から2週間後にまとめて提出することになっています。「音出し」では、曲を聴きながら、自身のものを含めすべての作品に対して感想やアドヴァイスを講評シートに記入します。講評シートは「講評集」として冊子にまとめ、閲覧できるようにしています。

Kouhyou

 講評シートにはコメントのほか、「楽曲構成」や「楽器法」など数項目についての評価点も記入されているので、自身の作品のどのように聴かれ、どういった点がいかに評価されているのか知ることができます。これらを参考に「音出し」のあとも作り込みを行い、作品の完成度を高めた上で3点の課題の作成に取り組みます。

いまs

 「楽曲データ」は、シーケンスソフトのファイルと、レコーディングして作成・編集したオーディオファイルの2つを提出します。オーディオファイルは「作曲演習」のwebページ上にアップロードされ、履修者が自由に聴くことができるようになっています。この演習の開講以来、履修した学生の作品は600曲あまりにもなりますが、開講初期を除く450作品ほどのオーディオファイルが公開されています。

 「レポート」は、「作曲の意図」「全体の構成」「各部分の構成」など5つの点について記述します。単に「手を動かしていたら何となくできあがった」というのではなく、その作品でどのような表現を目指したのか、音楽表現として何を試みたのかといった具体的な内容を書いてもらいます。もちろん、作曲を進めていく中で当初の目標から変わったり、出来が意図したものとは異なったりすることもあるでしょう。創作においては紆余曲折や試行錯誤はつきものですし、このようなプロセスも記述します。つまり「アイデア」が「思考」を通して、いかに「表現」として具現化されているか、明確な論述が求められます。

 「楽譜」は手書きによるもので、毎回どの学生も苦労しています。何かしら楽器の経験があっても楽譜を書くことに慣れていない人が多いですし、ほとんどの学生が初めての経験です。こういった状況を踏まえ、この演習では作品が完成してから、シーケンスソフト上に表示されるスコア(総譜)をもとに楽譜を作成します。

 「そのスコアをそのまま印刷すればよいのでは?」と思われるかもしれませんが、シーケンスソフトで表示されるスコアは、入力したデータがそのまま楽譜化されるため、標準の状態では実用的とは言えません。レイアウトも簡易的なものなので、楽譜として用いるには不十分で、細かな編集作業が必要となります。

 また、データを変換して楽譜制作ソフトに読み込ませて、コンピュータで楽譜を作って印刷する方法もあるでしょう。最近はかなり正確に変換されるようになりましたが、それでも十分ではありません。記譜のルールを知っていないと、楽譜制作ソフトを初期設定のまま使うことになり、やはり実用的な楽譜は作れません。楽譜は、書かれている情報の正確さはもちろん大切ですが、「見やすい(読みやすい)レイアウト」になっていることも重要です。そのためには、楽譜制作ソフトの機能を把握し、それらを使いこなせるスキルが必要です。限られた授業回数ではそのようなソフトまでは扱えず、仮に導入したとしても、機能の説明とスキル習得のための実習ですべての時間を使うことになるでしょう。

 これらを考えると、コンピュータのモニタ画面に表示されるスコアを見ながら、記譜やレイアウトが適切でない部分を確認・修正して手書きするほうが結果的に作業時間も労力もはるかに少なくて済みますし、より実用的な楽譜をつくることができます。自分の作品を形作っている音符や休符など、音楽の情報の一つ一つを五線紙に定着させる作業は確かに大変です。しかし、その作業を通して自らの思考を改めて振り返ることができますし、音楽の「設計図」とも言える楽譜を自身で完成させたときの喜びは何にも代えがたいものです。一方で「楽譜を作らない」という選択肢もありますが、やはり楽曲のデータだけでなく、レポートとともに楽譜があることで、第三者に自らの思考や創意をより明確に伝えられるのは非常に大きいと思います。この点は私自身、大事にしたいと考えています。

 さて、今期は授業スケジュールの関係で、いつもは「音出し」の前の回の授業で行っている楽譜に関する説明を最終回で行うことになりました。下の写真は、そのときの様子です。

   Gakuhu_9 Room_8

 教室の後方には、2003年度から2014年度後期までの履修生のレポートと楽譜がキャビネット内に保管されており、自由に閲覧できるようになっています。

Archive

 今期の履修生のレポートと楽譜も、数週間後にはここに保管されます。今後この演習を履修する学生が、レポートと楽譜を見ながら曲を聴くこともあるでしょう。自らの趣味嗜好を極力排し、客観的な観点で他者の作品(=創意)にじっくりと耳を傾ける機会も「作曲演習」では大切にしています。


執筆:伊藤 謙一郎

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