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『盲点』を見てみよう

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スティーヴン・バクスターの「タイム・シップ」(ハヤカワ文庫SF)というSF小説を読んでいたら、主人公が人間の体の束縛から離れる、という描写があって、「今までの視界はせまいのぞき穴から見た世界だった」、と気づく場面があります。
これは、眼窩に眼球がはめ込まれていたので視界に制限があった、と言う話。
 
実際問題、私達の眼は水晶体というレンズを通して外界の光情報を取り入れているわけですから、機械的な光の経路に関連してそこにはいくつかの制約があります。
 

 
私達の視界の中には実は常に見えない部分が存在し、これを『盲点』と言います。
視覚上にぽっかりと穴のあいた『見えない』箇所があるわけですが、脳がうまくその部分を補間してしまうので普段意識することは少ないはずです。これは視界に常に入っているのに無視される『鼻』のような存在ともまたちょっと違います(多分、皆さんは普段、鼻が見えていることを忘れてると思います)。
 
網膜の神経細胞で発生した信号を脳に送る神経ケーブルを束ねている個所が眼球の中にあって、そこを視神経乳頭(盲点)といいます。この箇所には光に反応する神経細胞を配置できないので、当然そこは光が来ても『見えない』場所になります。
 
下図の断面図で説明すると、丁度☆印に位置する部分の『映像』が、『反応する神経が無い』ために『無視』されるわけです。眼球の中の位置としては網膜の中央に位置する中心窩(ちゅうしんか)から鼻側に15度ずれた個所に存在し、視角として約5度の範囲を占めています。

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 図1 眼球の構造
 
実際に自分の眼の盲点の確認をしてみましょう。
 
下は右目用の図です。左目を隠すか、つぶるかして右目だけで図の+の部分を見つめて下さい。見つめたままディスプレイとの距離を変えてみましょう。するとどこかで右にある☆が見えなくなるはずです。
これは『盲点』の位置に光が到達したことを示しています。元の絵の右半面は緑色に塗っていて、☆の背景は黄色の丸になっていますが、それらも『消え』てしまい、あたかも緑一色で塗りつぶされているように見えるのでないでしょうか。
 
本来そこにあるものが見えずに、周りから推測される情報でその『空白』部分が埋められるているわけです。

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図2 盲点の確認
さて、それでは例えば、次のようにウサギで埋まっている画面の場合、盲点の箇所はどのように見えるでしょうか。

Usagi5_2

図3 盲点のウサギと柵は?

同じ様に右目だけで先ほどの盲点が確認できた距離で左側の+のマークを見てみましょう。すると、右の柵を飛び越えている黒いウサギが見えなくなるのが確認できると思います。柵近辺を意識してみると他の箇所は良く見えないながら、やっぱりごちゃごちゃとウサギで埋まっているように見えるのではないでしょうか。
 
さて、上から直線で続いている『柵』はどのように見えるでしょうか。やっぱり『なんとなしに良く見えないながらも』上下に直線がつながって見えていると思います。
 

 
以上で見てきたように、私達の脳は見えていない部分も巧妙に『そこには周りと同じ様なものがある』というゴマカシを行います。
 
実際には私達は両目で対象を見ていて、かつ、常に視線は動いているので、普段『ある箇所が見えない』という意識は起きません。ただ、盲点の位置する角度は注視点を0度とすると外側15度の方向なので、そのあたりに必要な情報がもしあっても『見つからない』、『見えない』、という現象が起こるというのは覚えておいて良いかもしれません。
 
(以上 文責:永田明徳(『視聴覚情報処理の基礎』担当))

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