« おもしろメディア学 第99話 音楽でのピタゴラス | トップページ | 第20回VR学会大会にて学会発表 »

経済的取引と会計の話

2015年10月 7日 (水) 投稿者: メディア社会コース

前回のブログ「データから社会経済の動きを探る技術」シリーズ「1−1=?(その2)」では、AADLの引き算を会計の考え方を通じて紹介した。いきなり経済的取引や会計の話がでてきたので少し分かりにくかったかもしれない。そこで今回は、前回の復習もかねて会計の話を補足することにしよう。興味のある読者は、拙著「ICTビジネス」(コロナ社)の第5章を参照していただきたい。

まず、経済的取引とは、であるが、ここでは物の売り買い、としておこう。お店で¥1000の商品を買えば、買った人は、その商品を所有し、自由に使用(処分)できるようになる代わりに、その対価としてお金を¥1000支払わなければならない。一方¥1000の商品を売ったお店の人は、商品を手放した代わりに、お客の支払ったお金¥1000を手に入れることができる。商品とお金、いずれか片方の移動だけでは通常経済的取引は成立しない。

この商品の売買という経済的取引の発生に応じて、お客とお店の双方でこの取引を会計データとして記録することができる。そして、この取引の両当事者に、それぞれ商品とお金の入()と出()が発生していることに気づかれるであろう。この増減の両面で取引を記録する方法が前回紹介した簿記である。それぞれ、対応する勘定科目で仕訳した結果は、例えば、

お客側

(借方)                    (貸方)

商品 ¥1000 (増加)    現金 ¥1000 (減少)

お店側

(借方)                    (貸方)

現金 ¥1000 (増加)    商品 ¥1000 (減少)

である。簿記では、商品とか、現金といった項目の量の増減(プラス、マイナス)が、左右いずれかの位置に記載されることで識別される。左右いずれが正負を表すかは勘定科目により異なるところが簿記の少しややこしいところである。記帳の全体像は次回に触れるとして、商品と現金はともに資産の部門に属する勘定科目で、増加したとき、すなわちプラス(+)の量の場合は左側の借方、減少したとき、すなわちマイナス(-)の量の場合は右側の貸方に記録される。交換代数表記すると、

お客の仕訳データ

= 1000<商品, , 4/1, > + 1000^<現金, , 4/1, >

お店の仕訳データ

= 1000<現金, , 4/1, > + 1000^<商品, , 4/1, >

と表せることは前回紹介した通りである。上の式からわかるように、交換代数では簿記のデータ構成に対応しているが、左右の位置で正負を識別することはない。基底のハットオペレーション「^」が減少、ないし負の量を表している。余談であるが、上の例で、お客とお店が同一人物、あるいは同じ家族の間であれば(subject基底が同一になることに注意しよう)、上記二つの会計データをまとめることができ、その結果、商品も現金も増減が相殺されて、この取引は消滅する。経済的取引とは、あくまで所有権が移転する当事者の間で発生するのである。

個人同士の間のやり取りであればこの仕訳で良いのであるが、お店の場合、通常、売上高が計上されたことに関して「売上」という収益部門の勘定科目で仕訳が行われる。売上の増加は貸方に記帳する。

販売の仕訳

(借方)                    (貸方)

現金 ¥1000 (増加)    売上 ¥1000 (増加)

そしてこのお店が商品の販売を行うためには、いくつかの取引がある。まず、販売すべき商品を仕入れなければならない。

仕入の仕訳

(借方)                    (貸方)

商品 ¥800 (増加)     買掛金 ¥800 (増加)

ここで、買掛金というのは、営業上発生した未払金で、後で支払うという約束のことである。買掛金は負債部門の勘定で、増加した場合には貸方に、減少した場合には借方に記帳し、資産部門の勘定と増減の記帳が逆になっている。次に商品の販売代金で買掛金を返済すれば、

返済の仕訳

(借方)                    (貸方)

買掛金 ¥800 (減少)     現金 ¥800 (減少)

のように仕訳される。そして仕入れた商品が販売されたので、これを当期の売上原価に計上し、

費用計上の仕訳

(借方)                         (貸方)

売上原価 ¥800 (増加 商品 ¥800 (減少)

と仕訳する。ここで、売上原価というのは、当該商品の売上が計上されたとき、その仕入・販売等にかかった費用のことをいい、増加した場合には借方に、減少した場合には貸方に記帳する。この事例では、仕入れた商品が販売されたことで、その仕入額が売上原価になったことを表している。

お店に関わる一連の取引の仕訳を交換代数表記してみよう。

仕入の仕訳

= 800<商品, , 4/1, > + 800<買掛金, , 4/1, >

販売の仕訳

= 1000<現金, , 4/1, > + 1000<売上, , 4/1, >

返済の仕訳

= 800<買掛金, , 4/1, > + 800^<現金, , 4/1, >

費用計上の仕訳

= 800<売上原価, , 4/1, > + 800^<商品, , 4/1, >

このお店に関して以上に発生したすべての取引を各勘定科目ごとに集計してみると、前回紹介した残高のオペレーション「~」によって商品の増減が相殺されて(引き算が行われて)

~(仕入の仕訳+販売の仕訳+返済の仕訳+費用計上の仕訳)

= 200<現金, , 4/1, > +1000<売上, , 4/1, >

+800<売上原価, , 4/1, >

とまとめることができる。

上の結果を再度仕訳表記してみよう。

(借方)                     (貸方)

現金       ¥200     売上       ¥1000

売上原価 ¥800

(借方合計) ¥1000   (貸方合計) ¥1000

これまで見てきたように、個々の取引データは必ず「発生データ単位ごと」に「入」と「出」がバランスした状態にある。したがって、ある特定の期間(この事例では4/11日間)に発生したすべての取引を集計し増減を相殺した残高を計算しても、この借方と貸方との間のバランスは保存されることになる。次回は、この集計された残高の意味について考えながら、会計の一般的な話に進むことにしよう。

(メディア学部 榊俊吾)

 

おもしろメディア学」カテゴリの記事

« おもしろメディア学 第99話 音楽でのピタゴラス | トップページ | 第20回VR学会大会にて学会発表 »