X線CTにおける諸問題 その1
2016年5月23日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース
こんにちは、加納です。
先日は私が研究している、X線CTの概要についてお話しました。
今日は、X線CTに残された課題や問題点を幾つかご紹介します。
まずは、以下のCT画像(私の頭の断面画像)をご覧ください。
何かがおかしいですね。
何がおかしいのか、一つ一つ見ていきましょう。
① 投影方向数不足
一番目の画像からは、投影方向数の不足による画像の劣化が見られます。私は前回、CTは連立方程式を解くことで硬さの分布を求めている、と言いました。しかし、当然ながら、投影方向数(方程式の数)が不足していると、正しい解を求めることはできません。
逆に、投影方向数が多くなれば多くなるほど、高精度な画像が得られます。しなしながら、それは同時に被ばく量や計算時間の増加といった問題が生じることを意味します。そのため、どれだけ少ない情報から、検査に十分な断層画像が得られるか、ということが重要になってきます。
以下の画像は、左から投影方向数が50、100、200のときの再構成結果になります。投影方向が増えるにつれて、画像の質も向上していることがわかります。実際の現場では500方向程度から撮影することが多いですが、より少ない方向から効果的に方程式を解くことができれば、被ばく量の低下、および再構成時間の短縮に繋がります。
② リングアーチファクト
二番目の画像からは、検出器感度のばらつきによるリングアーチファクトが見られます。アーチファクト(虚像)とは、実際には存在しない像のことで、リングアーチファクトはその名のとおり、リング状の虚像を意味します。画像を見ると、中心から同心円上にさまざまな径のリングが見られますが、当然私の頭にこのようなリングは埋まっていません。
X線の強度を取得する検出器は、精密機械ではありますが、感度にばらつきがあります。すなわち、同じ強度のX線が届いていても、読み取る検出器によって強度値が若干異なるのです。この問題を解決するために、一般的なX線CTでは感度補正を行っています。
感度補正によって、リングアーチファクトは下の図(左→右)のように低減されます。しかし、単純な補正ではどうしてもリングアーチファクトが残ってしまうことがあり、精密検査においては無視できません。そこで現在我々は、検出器感度とX線強度の関係性を綿密に計測し、効果的にリングアーチファクトを取り除くことに挑戦しています。
③ モーションアーチファクト
三番目の画像からは、被写体の移動によるモーションアーチファクトが見られます。撮影中に被写体が移動すると、連立方程式に矛盾が生じ、画像がボケてしまいます。近年のCTは1秒以内に撮影が終わることも多いですが、その間に動いてしまうこともあります。また、心臓など常に動き続けているものは、どうしようもありません。
以下の画像は、それぞれ撮影中に 5、1、0.5 cm 程移動した際の再構成結果です。移動量が大きいほど、ボケも大きくなることがわかります。被写体の動きを計算し、モーションアーチファクトを低減することができれば、撮影のやり直し、といった事態を防ぐことができます。
今日は、X線CTに見られる諸問題を紹介してきました。しかし、実は最も深刻な課題がまだ一つ残っており、私はその課題を解決するために、長年研究をしています。次回は、その課題について紹介していきたいと思います。
メディア学部 加納
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