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「かめはめ波」を現実に?

2016年7月 7日 (木) 投稿者: メディア技術コース

メディア学部の渡辺です。

みなさんは「エネルギー波」という言葉をご存じでしょうか?これは、大ヒットした漫画「ドラゴンボール」の中で、主人公の必殺技である「かめはめ波」などの、体内のエネルギーを一気に相手に対して放出する技の総称として用いられた用語です。このような表現は、「ドラゴンボール」で描かれるよりもずっと以前から用いられており、例えば「ゴジラ」や「ウルトラマン」の光線などがあります。人間や生物によるものだけでなく、宇宙戦艦ヤマトの「波動砲」やガンダムの「ビームサーベル」など機械による武器としてもよく用いられていますし、似たようなものとして実写映画スターウォーズの「ライトセイバー」などもあります。私が調べた限りでは、エネルギー波表現がコンテンツ内に登場した最も古いものはアメリカのアニメ「スーパーマン」で、発表は1941年になります。以下がその画像です。(この作品は既に著作権保護期間が切れていまして、ネットで無料で動画を閲覧することができます。)

Superman


このような表現を、ビデオゲームのようなリアルタイムグラフィックスの中で用いるための技術を、最近論文として発表しました。以下の URL から参照できる "Real-Time Rendering Technique for Visual Expression of Arbitrary-Shaped Energy Wave" という論文です。


この「エネルギー波」に関する研究は、私の研究室でこれまで数人に渡って引き継がれて研究をおこなってきたもので、最初の成果は現在メディア学部の実験助手を務めている阿部先生が学生時代に行ったものです。そのときの成果も学会誌論文に「エネルギー波表現のリアルタイムレンダリング」というタイトルで発表しています。


阿部先生は、まさに子供時代に「ドラゴンボール」に魅了された世代で、この当時の子供達は「自分も特訓すればかめはめ波が打てるようになる」と本気で信じていました(笑)。もちろん、実際にはこのような現象は現実世界では起こりえないわけですが、彼はコンピュータ上で自分の夢を実現させたわけですね。

彼の大学院生時代にこの研究を学会で発表したところ、ある大学の先生からこのような質問がありました。

「この手法は、現実の物理現象を踏まえていますか?」

その質問を受けた時の当時の阿部先生の顔を思い出すと今でも思わず笑ってしまいます。

先ほども述べたように、エネルギー波は実際の世界には存在しない物理現象です。しかし、この質問はCG、アニメ、ゲームなどの空想世界を対象とする研究でよく問題になるポイントをはらんでいます。というのも、実際には起こらない現象であっても、コンテンツの視聴者には「現実世界の現象」と感じてもらうことが重要になるからです。見ている人が「嘘っぽい」と感じてしまうと、シラけてしまいます。ドラゴンボールのかめはめ波は当時の子供達に「自分にも打てる」と思わせるほどのリアリティがあったわけで、空想の現象としては本当に素晴らしい表現だったと言えます。このような「リアリティ」を実現するため、我々コンテンツ研究者は数学、物理、プログラミングを駆使して空想世界の理論を構築し、表現しようとしています。あくまでコンピュータ内の話ではありますが、まるで「神として世界を構築していく」かのようなものであり、他では味わえない楽しさがあります。

(メディア学部講師 渡辺大地)

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