X線CTにおける諸問題 その2
2016年7月 4日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース
X線CTは物体の断層画像を見ることができる装置ですが、撮影対象の中に金属物質が含まれるとき、このように金属部分から放射状のノイズが発生してしまいます。
この放射状のノイズは、メタルアーチファクトと呼ばれます。
そして画像からわかるように、メタルアーチファクトが発生すると、正確な診断や検査が行えなくなってしまいます。
メタルアーチファクトが発生する代表的なケースとしては、
・金歯や銀歯などを含む患者の歯部の撮影
・人工関節(股関節、膝関節)の置換手術を受けた患者の撮影
・動脈瘤(風船のように膨らんだ血管)が破裂しないようクリップが埋め込まれた患者の撮影
・金属部品で構成された電子部品、電子基板などの撮影
などがあります。
私は、このようなケースでも正確に内部の観察を可能にするため、メタルアーチファクトを低減する技術の研究を行っています。
メタルアーチファクトの低減が可能になれば、医療分野では癌の早期診断、産業分野では金属部品の高精度非破壊検査などに繋がります。
■ メタルアーチファクト低減の研究成果
なぜメタルアーチファクトが発生するのか、どのようにしてメタルアーチファクトを低減するのか、ということを語り始めると、ややこしい話になってしまいます。そこで、今回は成果の一部のみを紹介したいと思います。
(金属で光が反射しているのでは、と考えられる方もいますが、実際の要因は大きく異なります。)
先ほどのメタルアーチファクトが発生しているデータに対して、私が提案した手法1)を適用すると、次のようになります。
メタルアーチファクトが劇的に低減されていることがわかります。
更に、この手法の性能がどれだけのものかを確認するため、私の頭に約30個の金属を追加で埋め込んでみました。
(こんな状況が実在するとは考えられませんが。)
次の画像は、
左:頭に大量の金属を埋め込んだ画像
中:通常のCT撮影を行った結果(気持ち悪くてすみません)
右:提案手法を適用した結果
となっています。
提案手法を適用することで、先ほどと同様、メタルアーチファクトは大幅に低減されていることがわかります。細かい部分でノイズやアーチファクトが残ってしまってはおりますが、これだけの画像が得られれば、診断や検査に与える影響は少ないと考えられます。
実は今回の私の頭には、金属の他に、
膿瘍を想定した部分(下図赤矢印)を2箇所、
腫瘍を想定した部分(下図橙矢印)を2箇所、
埋め込んであります。
これら病変部はメタルアーチファクトの発生によって観察が困難になっていますが、提案手法を適用することで、観察可能になっています。
(ただし、本当にこの画像が有用なのかどうかを調べるためには、定量評価やROC解析が必要になります。)
私は約6年間、このメタルアーチファクトに関する研究を行っており、大分煮詰まってきているように感じています。
今度は、実用性をより向上させ、多くのX線CT装置に本技術を搭載していきたい思いです。
メディア学部 加納
1) X線CT画像における逐次近似法を用いたメタルアーチファクト低減; 加納徹, 小関道彦: 計測自動制御学会論文集, Vol.51, No.12, pp.836-844, 2015.
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