メディア学大系 第9巻「ミュージックメディア」の出版
2016年9月15日 (木) 投稿者: メディア社会コース
コロナ社より、メディア学大系 第9巻「ミュージックメディア」が刊行されました。私たちにとって、音楽はとても身近な存在です。近年では、インターネットで好きな音楽を探したり、音楽を持ち歩いて好きな時に好きな音楽を聴いたり、コンピューターで気軽に音楽を作ったりすることが可能になりました。この本は、音楽文化・音楽産業・音楽理論の観点から、音楽の諸相を「メディア」を切り口に一冊にまとめたものとなっています。音楽が好きな方は、ぜひご覧ください。
コロナ社による紹介ページ(購入もできます)
https://www.coronasha.co.jp/np/isbn/9784339027891/
《まえがき》
古今東西「音楽」のない社会はないといわれる。それは「音楽」が人間にとって不可欠な文化の一部をなしていることを示している。そして現在の生活を振り返えれば、テレビ放送やYoutubeの視聴、CDや音楽ファイルの聴取、街頭や施設でのBGM、そしてカラオケ、楽器の演奏やパソコンを使った楽曲制作など、「音楽」しない日はないといえるだろう。
本巻『ミュージック・メディア』では、普遍的でかつ日常に満ちあふれた「音楽」にたいする理解をより深めてもらうことを目指している。そのための切り口としたのは「メディア」(media)である。「メディア」とは日本語でいえば「媒体」、つまり何らかの「人工物」を意味する。メディアという人工物を切り口にしてわれわれの音楽体験を考えると、「音楽」もまた、伝えたいメッセージを音楽的に表現し、それが伝えられるという、普遍的な人間のコミュニケーションの一形態と見なすことができる。その図式を示せば、「伝える人」-「音楽のメディア」-「伝えられる人」となるだろう。「人工物」としての「音楽のメディア」は、音楽的なメッセージが込められた「入れ物」である。
本巻では、音楽のコミュニケーションをより吟味すれば、さらに二つの側面が見えてくる。一つは音楽的なメッセージがどのように伝えられていくのか、という側面である。「伝えられる人」としての体験の多くは「人工物」としての「音楽メディア」に多くを依存している。そのため「音楽メディア」の発展にともなう音楽のコミュニケーションにおける変化を見ていく必要があるだろう。もう一つは「伝える人」が「音楽メディア」にどのように音楽的なメッセージを作り込んでいくかという側面である。端的に言えば、「音」を使って人を「楽しませる」伝える人側の「技術」である。この技術も「入れ物」としての「音楽メディア」に左右されるのである。
以上をふまえ、本巻の内容は大きく分けて二つのパートから構成されている。第1章から4章までは、主に人工物としての「音楽メディア」の技術的変遷と音楽コミュニケーションの変化に焦点を当てる内容である。第1、2章では、楽譜から、音楽ファイルまでを取り上げ、その質的な変化を検討する。第3章では、今日の音楽文化の中核であり続ける日本の音楽産業の現状を、その産業構造と制度、そしてテクノロジーの変化をふまえて概観する。第4章では、音の物理的特性とそれが人の耳に届けられる基本的なプロセスを解説する。
第5章から8章までは、普遍化した音楽である西洋音楽を事例に「音楽メディア」で表現される、「音」の組織化、つまり音楽を組み立てる技術と思想に関する内容となっている。第5章では、音を「音楽」にするための、音高の秩序のある規則性や構成原理の歴史を解説する。第6章以下では「音楽の三要素」をそれぞれ解説していく。第6章では、「リズム」の組織化の原理を人間の内面で心理的に生起する拍子感との関係から、第7章では、「メロディー」をその形式や展開に着目することから、第8章では、西洋音楽で高度に発展した「ハーモニー」から、音楽の構成技法の根本的な思想と理論を解説していく。