映像と音楽、そして声
2018年6月24日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース
- 人間の知覚や認知のメカニズムを研究する
- 社会や文化との関わりを研究する
- ひたすら「合う」と思うものをセンスで作り続ける
こうした様々なアプローチがある中で、今日は「制作手法を調べる」という研究アプローチをご紹介します。
邦訳が出ておらず日本ではあまり知られていませんが、こうした研究に取り組む著名な学者のひとりにDavid Neumeyerという研究者がいます。音楽理論の専門家としてキャリアを積んだNeymeyerは「構造的に音楽をとらえる」という方法を拡張して「映像も音楽も音も、全てを構造的にとらえる」という手法を編み出し、映画音楽・映画音響研究の第一人者にもなりました。世界の映像音楽・映像音響を学ぶ学生が、まず最初に辞書のように参考にする「The Oxford Handbook of Film Music Studies」(2014)の主要な編集者の一人でもあります。
もう1名はBrian Kaneという研究者です。こちらは「映像と音」というよりも「見えないのに聞こえる音とは?」ということを、様々な作品の作られ方を中心に丹念に追いかけています。見えないのに聞こえる音…というと不思議な感じもしますが、実はわたしたちが録音物で音楽や声を楽しんでいるということは、「演奏者が演奏している姿が見えないまま、音だけを楽しんでいる」という現象です。考えてみたらとても不自然なことですね。なぜこのような聴取が可能なのでしょうか。音だけを聞いているわたしたちの頭の中では、いったい何が起こっているんでしょう。日本ではアニメや声優ファンを中心に、ラジオドラマや声を中心としたCDタイトルが根強い人気を誇っていますが、こうしたコンテンツを研究しようと思ったら、Kaneのようなアプローチに行き着きます。「Sound Unseen」(2014)という書籍に、その研究の成果がまとめられています。
この両者に共通するのが、1980年以降、映画音響研究者として長年活動を続けている、フランスのMichel Chionの著作を頻繁に参考にしているという点です。Chionの著作は、幸いいくつかは邦訳があり、読んだことがある方もおられると思います。
問題はここからです。
近年の映像と音・音楽の関わりは、確かにChionの成果を基盤にはしているのですが、邦訳されている書籍が参考にされていることはほとんどなく、アメリカ人であるNeumeyerやKaneが参考にしているのは、邦訳が出ていない著作の英語版ばかりなのです…。
日本語版が出ているChionの著作を読むと、あまり「制作技法」や「構造的にコンテンツの要素をとらえる」という研究者にはみえず、気ままにエッセイを連ねているように読めます。しかし英訳の著作を読むと、過去の名作がどのように制作されているのかや、それを構造としてとらえるメソッドのようなものが、とてもドライに、シャープにまとめられています。
英語にまとめられている研究成果をもとに、NeymeyerやKaneはさらに今日的な研究に発展させているのです。
「英語か…。たいへんだなぁ…。」
安心してください。
メディア学部では、こうした国際的に水準の高い内容をコンパクトにまとめて、授業や演習でお伝えしています。フランス人やアメリカ人のキャリアの長い研究者の感覚と、みなさんのような日本人の若者の感覚が同じか違うか…は、こうした知的基盤を「ものさし」として知った上で、自ら創作する演習を通じて確認・検証を行なっていく機会もあります。
6月17日に開催されるオープンキャンパスでは、映像音響機器の操作を学ぶだけでなく、こうした研究を本格的に進め始めている先輩たちが「音と映像のコラボレーション」のあれこれを試している様子を視聴できます。みなさん自身にも、プロ用のツールを体験してもらえる時間も用意しています。
センスだけで突き進めるのも若者の特権ですが、大学に来て、国際的なメソッドや考え方を早いうちに学べるのもまた若者の特権です。メディア学部で、そのチャンスをぜひ活かしてみてください♪
(伊藤彰教:特任講師)
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