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文科系VS理科系?

2018年7月24日 (火) 投稿者: メディア社会コース

先のブログで、714()に明治大学で開催された、2018年度情報コミュニケーション学会第24回研究会/社会コミュニケーション部会における、当ゼミ生の研究報告を紹介しました。

当研究会では他にも、広く社会におけるコミュニケーションをテーマとした興味深い研究報告が行われています。その中に、高等教育と生涯所得に関する研究がありました。学部/大学院教育において、理科出身の方が文科出身よりも、有意に生涯所得が多い、との実証研究でした。

本学は工学系を中心とした教育機関であり、我が意を得たり、と感ずる人も少なくないかもしれません。一方で、人の生涯所得が、20代前半までの学校教育にのみ依存し、社会に出てからの研鑽、努力、就職先への適性では手遅れ、という結論に直感的な疑念が生じる向きもあるかもしれません。

使用するデータが今回の結論に耐えられるだけの、捕捉範囲、長期間にわたるサンプルであったか、という問題もなしとはいいきれません。また、今回の報告は、他の研究者による実証的な研究結果を踏まえているようです。しかし、上記の結論は、理論的にも予想されないものではないのです。当日は、十分議論する時間がなかったので、この場で少し、この件に関して紹介しておきましょう。

経済学には、知識資本と経済成長の関係を扱った、内生的成長モデルという考え方があります。知識資本は、教育等による人的資本形成を含む、生産技術やノウハウといった、経済活動を生み出す、文字通り知識全般が積蓄されたものを指します。個々人が知識から生み出す限界生産性は逓減しても(知識が蓄積されるにつれて増加していく生産量の増加分は減少していくということ)、社会全体の限界生産性は、知識が広く人々の間に共有され、活用されることで強化され、収穫一定であったり、逓増したりする可能性があります。

そして、内生的成長モデルによれば、この知識資本の社会的な限界生産性が一定、または逓増の時、初期の知識資本の差が、それぞれその後の経済成長に永続的、累積的な格差を与えてしまうことになるのです。要は、勉強をサボっていると、社会に出てからでは取り返しがつかないよ、ということです。理科か、文科かという文脈では、理科系教育を基準とした場合の教育格差が、生涯所得に埋めがたい影響を与えることになります。理科系出身者には誠に心強いご託宣です。

一方、直感的な言い分の方にも耳を傾けておきましょう。データの捕捉範囲にも関係しますが、出身学部/研究科と就職先の業種、そして就職後のキャリアパスとの関係も無視できません。一般的に、メーカーでは、ものづくりという業種特性から、理科出身者から研究職、技術職として多くの人材を確保し、経営幹部、トップに昇進する企業が少なくないでしょう。一方、銀行を中心とする金融機関では、業務の特性上、法学部、経済学部出身者の採用が多く、文科出身者が経営幹部に昇進する傾向があるといえ、理科出身者はアナリスト等ごく一部の専門職に限られるのが一般的でしょう。霞が関でも、技官がトップに登りつめるのはごく一部の官庁といわれています。このように、給与に直接影響する昇進と出身分野との関係は、進路となる業種の違いもあり、前述の報告でも業種別の実証結果に言及して欲しかったところです。

(メディア学部 榊俊吾)

 

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