カットする? [ その1 ]
2019年4月15日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース
「ここはカットでお願いします」。最近のバラエティ番組で出演者の誰がよく使うセリフがある。これは「いま話した部分は、放送では無し( 無かったこと )にしてください」という意味であろう。
ではなぜ「無しにしてほしい」というシチュエーションで、「カット」という言葉を使うのだろうか。英語の「カット( Cut )」は、本来は「切る」という意味である。「取り除く」あるいは「捨てる」という意味を強調したいのならば「リムーブ( Remove )」とか「ディスカード( Discard )」と言うべきではないだろうか。そうでないと「私を真っ二つに切ってください」とお願いしていることになる。
皆さんご存知のように「カット」という言葉は、映画制作の現場から来た言葉である。映像の「編集」作業では、映像の順番を変えたり、あるシーンの長さを変えたりするために、物理的なフイルムを切ったり繋いだりする。フイルムを「カットする( 切る )」という一手順を表す言葉が、「編集」そのものを表すようになり、その後さまざまに転用されて使われるようになった。
映画のある場面で、アングルが違う画面ひとつひとつを「カット」と呼ぶ。カメラで撮影された一続きの映像は「ワンカット」である。「次のカットにいきましょう」と言えば、カメラの撮影位置を移動して台本の別の箇所を撮る。「ファイナル・カット」は、編集の最終( 完成 )バージョンのことである。映画監督とは「カット!」と叫んで、すべての撮影作業と俳優の演技を止める特権を持った唯一の人物のことである。
また、面白いことに「編集作業」を表す言葉は、最初は国によって違っていたそうだ。アメリカでは元々「カット」だったが、イギリスやオーストラリアでは「ジョイント( つなぐ )」と言っていたらしい。フイルムを「切って捨てる」ほうを取るか「拾ってつなぐ」ほうを取るかで、同じ作業も言い方が違ったのだ。
バラエティ番組の話に戻る。スピードアップする現代では、うっかり発言も多発して当然だ。番組中に話が盛り上り過ぎて「カットしてほしい」場面が出るのもしかたない。しかし「この番組は生だからカットできません」と言われて気づいても時すでに遅し。SNSでも同様に気をつけたいところだ。
さて、メディア学部では一年生向けの前期授業として、映像技法の基礎を学ぶ「映像創作入門」を開講している。
今年度4月9日( 火 )の第一回授業では、「わかっているようで実は謎が多い」映像の不思議について考えたい。映画において「カット」がどれだけ「すごい威力」を発揮しているか。そして我々観客がどのように「騙されて」いるか。その驚くべきその事例や、裏話をお聞かせする予定である。
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