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[シリーズ難聴-1]なぜメディアの力で聴覚障害者を支援するのか。

2019年5月31日 (金) 投稿者: メディア社会コース

「シリーズ難聴」では、あまり知られていない聴覚障害の実態をご紹介し、なぜメディア(ICT技術やデジタルコンテンツなど)の力で聴覚障害者を支援する必要があるのかについて連載していきます。

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聴覚障害について調査を始めたのは2年半ほど前のことでした。

言葉をほとんど発しない3歳7ヶ月の娘。自閉症スペクトラムだと診断されたものの、もともと音楽・音響が専門である私にとって釈然としませんでした。娘は音が聞こえていないのでは、と直感的に感じていたからです。いろいろな専門家に意見を聞いたところ、聴覚障害の伺いがあると言語聴覚士の方から指摘されました。聴力検査、脳波を測る検査、遺伝子検査などを経て、聴覚障害であることが確定しました。それまで聴覚障害については全く知識がありませんでしたので、たくさんの論文や本を読んだり、娘の病院や療育先で専門家から教えて頂きました。もともと音の専門家ですので、さらに興味が湧いてきて、聴覚障害に関わる学会に参加するようになりました。

 ところで、新生児の約1,000人に1人から2人が、聴覚に何らかの障害を持って生まれてくるのをご存知でしょうか。聞こえない、もしくは聞こえにくい子どもは、早期に発見して適切な支援を開始することでコミュニケーションの形成や言語発達の面で大きな効果があります。聴覚障害は先天性(生まれつき)の障害だけでなく、だんだん聞こえなくなる進行性や、突然聞こえなくなる後天性の障害もあります。世界保健機関(WHO)の発表によると、高齢者人口の増加などで、世界的に聴覚障害に苦しむ人が増えており、2050年には現在の約4億7千万人から約9億人に達する可能性があるとされています。日本ではこの10年間で、約500万人から550万人に増加したと推定されます。
 
 聴覚障害の原因は、遺伝によるもの、はしかや水ぼうそうなどの感染症、結核などの治療剤による副作用、加齢によるものなどが考えられます。さらに近年では、若者を中心にスマートフォンなどで大音量の音楽を長時間聞く習慣があることから聴覚障害になるケースも増えています。足に障害があり車椅子に乗っていたり、視覚障害があり白杖をついているのとは異なり、聴覚障害は見ただけでは分かりにくいという特徴があります。また、補聴器や人工内耳をして聞こえが改善したとしても、健聴者と同じように聞こえることはありません。
 
 平成28年4月1日より施行された「障害者差別解消法」により、障害者に不利益がないような社会環境の整備が求められています。東京オリンピックに向けて、東京都では多目的トイレの設置や点字ブロックの設置が進んでいます。しかし、聴覚障害者に対する必要な配慮がまだ周知されていないため、「きこえのバリアフリー」はまだあまり進んでいないのが実情です。

 そこで、私は「聴覚障害支援メディア研究室」を立ち上げる決意をし、新しいテクノロジーを活用し、コンテンツの表現を工夫して、聴覚障害者の方々が少しでも暮らしやすい環境づくりを目指した研究をすることにしました。研究室については改めて詳しく記事にします。

 次回の「シリーズ難聴-2」では、今年度後期よりスタートするメディア専門演習「聴覚障害理解とコミュニケーション支援」についてお話します。


メディア学部 吉岡 英樹

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略歴:バークリー音楽院ミュージックシンセシス科卒業後、(有)ウーロン舎に入社しMr.ChildrenやMy Little Loverなどのレコーディングスタッフや小林武史プロデューサーのマネージャーをつとめる。退社後CM音楽の作曲家やモバイルコンテンツのサウンドクリエイターなどを経て現職。1年次科目「音楽産業入門」を担当。現在のコンテンツビジネスイノベーション研究室は2020年度にて終了し、聴覚障害支援メディア研究室として新たなスタートを切る。


 

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