寺澤研3月学会発表報告
2019年5月 7日 (火) 投稿者: メディア技術コース
メディア学部の寺澤です。
前回に引き続き、今度は今年3月にあった学会でのポスター発表について書きます。3月19日に東京の早稲田大学西早稲田キャンパス(理工学部)で電子情報通信学会の総合大会がありました。私の研究室からは、大学院修士課程1年(当時)の留学生の胡君と4年生(同)の荒木君がポスター発表を行いました。このポスター発表は学生セッションで、多くの大学から参加者がありましたが、大学院修士課程の学生の発表が多いようでした。中には高校生の発表もありました。
胡君の発表は「機械学習によるCoAPの輻輳予知の検討」というタイトルで、IoT ( Internet of Things ) で用いられる通信プロトコルの CoAP ( Constrained Application Protocol ) の輻輳制御、特に輻輳の予知について提案を行うものです。輻輳というのはネットワークの混雑のことです。(写真右が胡君)
CoAPはIoT向けの通信プロトコルとして広く使われていますが、輻輳に対応する機能は備わっているものの十分ではありません。そこで、IoTネットワークのトラフィックを収集し、その中から、輻輳に至るパターンを見つけ出すことを考えました。これは十分な量のデータがあれば機械学習によって行うことができる考えられます。そうして学習したモデルを使って、リアルタイムにトラフィックを監視すれば輻輳が予知でき、素早く対応することが可能になります。問題は大量のトラフィックデータを入手できるかどうかですが、色々と探しているものの、良いデータを見つけられていません。実際に何らかのIoT環境を自分たちで作ってデータを採集することも考えていますが、課題は多いと言えます。
もう一つの荒木君の発表は前回紹介した卒業論文の内容に関するものです。タイトルは「ネットワーク起動型IoTデバイスの研究」です。IoTデバイスとは、ここでは家庭用の無線LANルーターやネットワークに対応した監視カメラなどを指します。近年、これらの機器類は急速に普及していますが、多くの利用者は、パスワードなども含めて初期設定のまま利用しています。このような状況では、初期パスワードで簡単にアクセスされてしまいますし、機器のソフトウェアに問題点があると、たちまちセキュリティホールとなってしまいます。そうすると悪意のあるソフトウェアを仕込まれてネットワーク上の大規模な攻撃(DDoS攻撃)の道具にされてしまったり、宅内のカメラ映像を覗き見されプライバシーが侵害されるなどの深刻な問題が発生します。実際、2016年にはMiraiというマルウェア(悪意のあるソフトウェア)により、特定のサイトを標的としたDDoS攻撃が何度も行われました。
このような状況に対応するために、メーカーは努力していますが、ソフトウェアのアップデートが不要になるわけではありません。そこで、私たちはソフトウェアのアップデートをユーザーに委ねるのをやめ、強制的にアップデートが行われる仕組みを提案しました。この仕組みでは、ソフトウェアはごくわずかなものを除いて機器にはインストールしません。代わりに、起動時にネットワーク上の特定のサイトからシステムのソフトウェアをダウンロードし実行します。メーカーや専門家が提供する安全なサイト上に安全な最新のソフトウェアを配置しておいて、それを利用します。そして、深夜などの機器類が使われない時間帯に自動的に再起動を行って、定期的に最新のソフトウェアに入れ替わるようにします。機器の電源のOFF→ONを行えば、それだけで即座にその時点の最新のシステムになります。(写真左の後ろ姿が荒木君)
今回はLinuxの動作する小型コンピュータのRaspberry PiをIoT機器のハードウェアに見立て、それをネットワークブートして無線LANルーターなどの目的の機能を実現させることにしました。この仕掛けは、従来からあるPXEなどの、コンピュータのネットワークブートの機能を利用すれば原理的には可能です。しかし、実際にはPXEが想定している環境とは全く異なる環境でこれを実現する必要があり、その工夫が荒木君の研究のポイントです。今回は一般的な家庭での状況を想定した環境で宅内設置のIoT機器を起動させるめどをつけることができました。
また、この仕組みとRaspberry Piのような汎用的なハードウェアを用いれば、ソフトウェアを入れ替えることで機器を別の機能で動かすことができます。例えば、メーカーがソフトウェアの保守を終了した後でも、他のソフトウェアベンダーやOSSプロジェクトがソフトウェアを提供し保守をしていけば、安全に使い続けられたり、別の機能の機器として使ったりできます。実用性の観点でまだ問題が残っていますので、PXEに頼らない新しいネットワークブートの方法の検討を含め、それらの解決が今後の課題です。
(メディア学部 寺澤卓也)
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