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[シリーズ難聴-2]情報工学系のメディア学部で聴覚障害支援の演習をやる意義。

2019年6月25日 (火) 投稿者: メディア社会コース

今年度後期より、メディア専門演習「聴覚障害理解とコミュニケーション支援」がスタートします。情報工学系のメディア学部で聴覚障害支援の演習を行う意義とは何でしょうか。


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 皆さんは、聴覚障害者を支援している専門家として、耳鼻科医、言語聴覚士、特別支援学校(ろう学校)の先生、手話通訳者を思い浮かべるでしょう。実際に、これらの方々が聴覚障害者を支えており、欠かせない存在であることには間違いありません。しかし、インターネットやスマートフォンのような通信機器が普及し、AI(人工知能)やセンサー技術が発展していくミライにおいて、これまでとは違う支援の方法もあるのではないでしょうか。情報工学の専門家が集まっているメディア学部で、聴覚障害者のコミュニケーション支援に取り組むことはとても自然なことなのです。聴覚障害についての理解を深め、新しいカタチの支援方法を考えるのがこの演習の目的です。

 聴覚障害には先天性と後天性があり、聞こえないまま育つと言語発達に大きな影響があります。先天性で重度難聴の場合、音がほとんど何も聞こえないため口話を習得することが困難なケースがあり、手話を使ってコミュニケーションをとります。実は、日本には手話が2種類あり、「日本手話」と「日本語対応手話」と呼ばれています。それらを混ぜた「中間型手話」もあるようです。「日本手話」は日本語とは文法が異なり、別の言語と言えます。手だけではなく、体や表情を使った表現豊かな言語です。「日本語対応手話」は、口で日本語を話しながら、それに合わせて手話を行います。聴覚障害者がどちらの手話を選択するのかは、家庭環境や学校の方針にもよりますが、一緒にコミュニケーションをとっているうちに「中間型手話」が生まれたようです。なお、ある程度聞こえる聴覚障害児で口話を中心としたコミュニケーションをとっていても、手話を覚えることで、言葉への理解が深まったり、雑音化でのコミュニケーションに役立つ場合もあります。

 近年では、新生児スクリーニングにおける技術の進歩により、早期に聴覚障害を見つけることが可能となり、早期に療育することでコミュニケーションや言語発達の遅れを少しでも軽減できるようになりました。デジタル音響技術も進歩しており、補聴器や人工内耳の性能も上がっています。2014年には人工内耳の適応年齢の見直しがなされ、1歳から手術を受けることが可能になりました。人工内耳の先進国であるオーストラリアでは、15年ほど前から生後6ヶ月で手術を受けることが可能となり、コミュニケーションや言語の発達においてさらに優位になることが分かっています。そのため、聴覚障害者が社会に出て聴者と一緒に生活や仕事をするチャンスが増え、職業の選択肢も広がっています。

 しかし、補聴器や人工内耳を装用したとしても、聴者と同じように聞けたり話したり出来る訳ではありません。例えば、雑音化や複数の人が話している環境で、どの人が何を言っているのかを聞き分けるのが困難なケースがあります。そのため、情報を聞き逃したことから、次にしなければならない行動が違ってしまうこともあり得ます。もしも、電車に乗っている時に大きな地震があり、車内アナウンスで指示があったとしても、雑音が多い環境下でその情報を聞き取ることは難しいかもしれません。聴覚障害者は見た目では判別しにくいため、周囲の人も困っていることに気づかないかもしれませんし、本人も自分が置かれている状況を把握することが出来ません。車内アナウンスをリアルタイムにテキスト化して、車内のデジタルサイネージに表示すれば、聞こえにくい人にも情報が正確に伝わります。

 この演習では、まず聴覚障害への理解を深めることから始めます。耳栓をして聞こえにくい状況を体感したり、手話や指文字を使って聴覚に頼らないコミュニケーションを体験したり、補聴器や人工内耳についてインターネット調査を行ったりします。その後、音声をリアルタイムにテキスト化するアプリや、音声を振動に変換して伝えるデバイスなど、現存する聴覚障害支援ツールを実際に使ってみます。最後に、聴覚障害支援に相応しく新しいアイディアを提案します。

 演習を通じて、聴覚障害への理解が深まり、様々なテクノロジーやコンテンツによる支援の可能性を実感することを目標とします。さらにその体験から、人工知能・IoT・スマートデバイスなどを組み合わせて、新たなソリューションを創造するアイディアへと繋がることに期待します。

 

<授業計画>
第 1回:きこえにくい環境下でのコミュニケーション体験
第 2回:音の性質、聴覚障害に関する調査と理解
第 3回:指文字によるコミュニケーション体験(基礎)
第 4回:指文字によるコミュニケーション体験(応用)
第 5回:手話によるコミュニケーション体験(基礎)
第 6回:手話によるコミュニケーション体験(応用)
第 7回:補聴器、人工内耳に関する調査と理解
第 8回:読唇術、筆談によるコミュニケーション体験
第 9回:聴覚障害者が必要としている配慮の調査と理解
第10回:音声認識技術によるリアルタイム字幕の体験
第11回:その他のコミュニケーション支援方法の調査と理解
第12回:聴覚障害支援の考察とディスカッション
第13回:提案の素案作成と発表
第14回:提案書と発表原稿の作成
第15回:提案の発表

 


メディア学部 吉岡 英樹

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略歴:バークリー音楽院ミュージックシンセシス科卒業後、(有)ウーロン舎に入社しMr.ChildrenやMy Little Loverなどのレコーディングスタッフや小林武史プロデューサーのマネージャーをつとめる。退社後CM音楽の作曲家やモバイルコンテンツのサウンドクリエイターなどを経て現職。1年次科目「音楽産業入門」を担当。現在のコンテンツビジネスイノベーション研究室は2020年度にて終了し、聴覚障害支援メディア研究室として新たなスタートを切る。


 

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