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ゲーム理論とゲームについて(1) ゲーム理論の紹介

2019年7月 5日 (金) 投稿者: メディア技術コース

渡辺です。こんにちは。

 

最近、研究室の学生達と新しい研究を色々と進めておりまして、その中で「ゲーム理論」と呼ばれる学問がとても重要となってきました。せっかくですので、この「ゲーム理論」について不定期連載をしていきたいと思います。

 

もし「ゲーム理論」という単語を初めて見る人は、この単語からどのような内容を想像するでしょうか。おそらくは、ゲーム中のキャラクターがどのように動いていくかとかの、ゲーム内の様々な技術を総称したものと考えるのではないでしょうか?私も学生時代にこの単語を初めて目にしたときはそのような連想をしました。しかし、私の場合問題はその状況でした。というのも、この単語をはじめて聞いたのは経済学の授業の中だったのです。企業利益予測とか社会経済動向とかの説明の中で突如「ゲーム理論」という言葉がでてきて、最初は聞き間違えたかと思ってしまいました。

 

「ゲーム理論」を簡単に説明すると、複数の主体(人・企業・国)が何かしら目標を持っていて、それを達成するために各々で行動していき、その結果がどうなるのかを推測・分析するという学問です。このように抽象的に述べるとわかりづらいのですが、その典型的なものの一つが対戦型ゲームやスポーツ競技です。ババ抜きや七並べなどのトランプゲーム、あるいはテニスやマラソンなどがそれにあたります。これらのゲームやスポーツでは、ルールに従って勝利条件が定められ、勝利を目指してプレイヤーや選手が様々な方針で挑みます。ルールや条件を変えてみると、企業間の利益競争とか、国同士の発展も同じような法則を持つので、これを理論化したものが「ゲーム理論」というわけです。

 

「ゲーム理論」の創始は 1944 年、数学者のジョン・フォン・ノイマン (1903-1957) と経済学者のオスカー・モルゲンシュタイン (1902-1977) によって共著「ゲームの理論と経済行動」が出版されたときとされています。当時まだ経済学では数学を用いた分析は主流ではありませんでした。数学は物理学や工学への適用は大きな成功をおさめていましたが、経済学や生物学などでは統計学などの一部の分野を除いて相性が悪いものとされていました。数学は、単一の対象物に対して高度な理論が必要となるときには大変有効な武器になるのですが、単純ではあるものの雑多多様なものが絡み合うような事象には不向きとされており、例えば経済学や生物学のような分野には不向きと考えられていたわけです。これに対し、モルゲンシュタインはノイマンの数学が経済学の問題解決に有効であると確信していたようで、最初はノイマンから数学を教わることからはじめ、それが共同研究に発展していきました。

 

「ゲーム理論」の(最初の)ターゲットが経済学なのに、なぜ「ゲーム」という単語が用いられたのでしょうか?「ゲーム」という単語は、日本語では「遊び」というニュアンスがかなり強い言葉ですが、英語の場合はもっと広い意味で「試合」とか「競技」、さらには「戦略、計画」や「職業、仕事」という意味も含まれます。そう考えると、スポーツはもちろん企業競争や国同士の発展動向なども「ゲーム」というくくりに入れることができるわけです。

 

ゲーム理論は、創始当初はモルゲンシュタインの狙い通り経済学での適用が主なものでしたが、次第に生物学、宗教学、教育学、スポーツ科学などにも有用であることが示されていきます。また、インターネットが発達してからはコンピューターネットワークの運用にも有効であることが示されたりと、現在でも応用範囲が時流と共に広がっています。

 

では、当の「ゲーム」に対する応用はどうでしょうか?ゲーム理論は、そもそもの理論モデルがカードゲームやボードゲームを元にしているものなので、相性は抜群であり、それらの分野では大きな発展を遂げてきました。最近では、チェス・将棋・囲碁といった主要なボードゲームでは既に人間を凌駕したと言われています。しかしながら、その他のゲームジャンルにはあまり「ゲーム理論」が応用されることはありませんでした。過去形で述べているのは、近年のゲームAIの発展により、ゲーム理論がゲームAIを実現する上で非常に重要なものとなってきたからです。

 

次回は、ゲーム理論とゲームAIの関連性、そしてゲーム理論で最重要な理論である「ナッシュ均衡」について述べたいと思います。

 

渡辺大地 (メディア学部准教授)

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