本の量り売り(Re:Design #1)
2019年9月12日 (木) 投稿者: メディア技術コース
私は本が好きで、学会や旅行で行った先で本屋を見かけるとつい入ってしまいます。本が好きということについては、本の内容についての「好き」の他に、紙で綴じられた「本」という形態が好きであるという面もあるのではないかと思います。表紙のデザインや文字の印刷、挿絵などが魅力的で、外国語で書かれていて内容が読めなくてもモノとして素敵だと感じます。本はかさばるので電子書籍がいいという人も多いかもしれませんが、それは本の内容だけを対象とした考え方ですね。造形物としての本が好きな場合は、電子書籍では満足できないのです。といっても、格別の綺麗な本でなくて一般的な文庫本でも、新品のきれいな装丁の本で十分魅力的なものを感じてしまうことがあります。また、本が沢山並んでいるところを見ること自体も楽しく感じます。
左:台湾(台中)の書店、右:スペイン(バルセロナ)の書店
さて、色々な書店や図書館に行って共通することは、本の配置でしょう。普通、本はジャンル別に分けられ、さらに細かい分類や、小説などであれば著者別になって置かれています。そうすることで希望の本を見つけやすくなっているわけです。これは、本をその内容によって選ぶということを前提とした方法ですね。当たり前のように思いますが、世の中には少し異なったアプローチをしている例があります。
近畿大学の学生用の施設の工夫として、本が置かれている場所を迷路のようにしているというものがあります。道筋が斜めに入り組んでいてあえて迷うように作られているとのことです。本自体はジャンル別に配置しているようですが、あえて目的の場所にスムースに進めないようにすることで、興味あること以外の本との出会いがあるようにしているのです。大学という場であるため、学生により広い教養を持つようになってほしいということからこのような設計をしているのです。
別のアプローチは、どこの国だったか忘れてしまったのですが(スペイン?)、市場の中で本を売っている店があって、なんとそこでは肉のように本が量り売りされています!そうした値段付けが可能なのは中古本を扱う店だと思いますが、内容や元の定価などによらず、グラム当たりいくらというように値段付けがされています。普通、本の値段を重さで決めるなんてことはしませんね。本の価値を内容に依って決めているのではないことが明らかです。しかしながら、これは本の内容を無価値なものと考えた結果ではありません。店主によると、自分で選んで店に置いてある本はどれも価値のあるもので内容によって差別できるものではないため、内容でなく単純に物体としての違いとして重さによる値段付けをしているのだそうです。これは配置とは関係無いことでしたが、この考え方を適用して、重さ別に本を並べて置くということができそうですね。そうすることで、本の選び方が変わってきそうな気がします。外出のときに持ち歩く用に軽い本が欲しいと思って選ぶのであれば軽い重量の棚から本を探し、部屋に飾る重厚な本が欲しいという場合には最重量級の棚を探す、なんて選び方がでてくるかもしれません。
私達は、様々な事柄や方法について、現在のものを当たり前のものとして疑いもなく受け入れてしまっていることが多いと思いますが、そこに従来とは違う対象との関わり方を導入してみることによって、全く新しい価値が提示されることがあるのです。これは、人とモノとのインタラクションをデザインするということです。こうしたインタラクションのデザインという考え方で物事を見直すことによって従来のアプローチを便利にしたり楽しくしたりする可能性が多々あります。また、そうした人との関わりという視点を全く考えられていないなと不満に思うことが世の中には多々あります。私の研究室では、既存のものをデザインしなおす新しい視点、面白い視点を見つけるようなことをテーマとして取り上げたいと考えています。
太田高志
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