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日本認知科学会 第36回大会での講演の紹介

2019年9月 7日 (土) 投稿者: メディア技術コース

おはようございます.榎本です.

ただいま,静岡県の浜松市にある静岡大学で開催されている日本認知科学会 36回大会に参加しています.

今朝は,田中悟志(浜松医科大学)のご講演で,「研究成果の社会還元ー医療応用を具体例として」というものです.

医学では,効果のあるとわかる結果をどのように実践に結びつけているかというお話です.大変興味深いないようだったので,ご紹介します.

 

ランダム化比較試験で効果を確かめるというのが基本だそうです.

例)脳卒中患者の下肢筋力に対する軽頭蓋脳刺激実験です.実際に刺激を脳に与えたグループが偽の刺激を与えたグループより,良い効果が得られたら,効果があったとみなすものです.

 

システマチックレビューとメタ分析

・データベースから抽出した研究から,目的に合わない研究,基準にあわない研究をのぞいて,平均効果量を抽出して,やはり軽頭蓋脳刺激に効果のあることを確かめて,実際に医療現場で用いるそうです.

 

認知科学研究の社会還元への提案

1.  研究デザインのエビデンス・レベルを意識する

2. エビデンス・レベルを高める工夫をする

3. 成果を還元したいのは集団か個か,明確化する

4. 成果を個に還元するための方法を考える

5. シングルケース・デザインを活用する

ランダム化比較試験であれば,何でも高いエビデンス?

GRADEシステム

  1. 初期評価
  2. グレードダウンさせる要因:バイアス,結果の非一貫性,まばらなエビデンス,非直接生,不精度,出版バイアス
  3. グレードあ@p@うさせる要因:効果量が多いなど
  4. 最終判断

エビデンスレベルを高める工夫

・研究計画の事前登録:UMIN 臨床試験登録システムに事前に登録して公開する.

 ⇒データ取得中に目的,デザイン,患者選択基準,データを変えることができないようにするため.浜松医大だとこの登録をしないと学内での実験が倫理委員会で通らない.

・ネガティブ・データの報告:ネガティブ・データは出版されにくい

 インパクトファクターの高くない論文でも7rejectされた経験がある.

ネガティブデータの報告は,システマチックレビューを行う上で重要

・多国間研究

  話し合いで記憶変わる(目撃証言)

   10ヶ国,N=486 という研究,外的妥当性が高い(一般化可能性が高い)

 

エビデンスを還元するのは集団か個か?

母集団サンプルを抽出グループ研究(エビデンス)個人 or 集団

例) 2型糖尿病を予防するための保健指導

  ・プラセボ群(偽刺激群),メトホルミン群,集中保健指導群 で調査

  発症率-> プラセボ群(偽刺激群)>メトホルミン群>集中保健指導群

集団に適用(◯)

・保健指導を医療政策として導入

・糖尿病予備群700万人

・約101万人の予備軍を救済

 

個人に適用(☓)

・予防効果は個人では評価できない

・治療効果:効果のばらつきが大きい場合,その個人で効くかは試してみないとわからない

 

個の治療にどのように落とし込むか?

・研究によるエビデンス

・医療者の専門性・経験

・患者の価値観

この3要素を統合する.

  1. 患者の問題の明確化
  2. 室の高いエビデンスの収集
  3. 得られたエビデンスの批判的吟味
  4. エビデンスの患者への適用(医療者の専門性・経験,施設の設備状況,患者の意向や価値観)
  5. 適用結果の評価(帝王結果を評価し,次のプロセス改善に役立てる)

=その患者で計画・実行・評価・改善を繰り返す

 

例) 1,2,3は「認知症疾患診療ガイドライン」で代用できることもある

  アルツハイマー型認知症の診断にアミロイドPET検査は有効か  ーー 効果A

      アルツハイマー型認知症の診断にアミロイドAPOE遺伝子検査は有効か  ーー 効果C

 

シングルケース・デザインの重要性

  1. 応用現場における効果の計測と評価
  2. 個人レベルにおける効果のエビデンス

個人における治療効果を直接推定でき,その参加者自身の治療の決定に役立てられる

 

方法

 ・AB法:ベースライン(A)に対し,介入(B)が効果的かどうかを調べる

 ・反転法(ABA法):介入時のみ効果があることを確かめる

 ・多条件反転法,複数の介入を比較する(ABCBCACACなど)

 

など.

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