演出と照明の設計
2019年10月20日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん,こんにちは.メディア学部助教の兼松です.
昨年着任して以降,私が担当している授業の紹介などはこのブログで書きましたが,私自身の研究についてはあまり触れていなかったので,今回は私の好きな映画を交えて紹介します.私の研究は,一言で言えば「映像コンテンツの演出設計」に関する研究です.
演出という言葉は皆さんも耳にする機会が多いと思います.例えば映画や演劇を観た後に「あの演出はよかった!」と言ったりしますよね.ところが,この演出という言葉は物凄く広い範囲で使われていて,演出とは具体的にどんな行為か特定するのが難しい言葉でもあります.
映画などを観た際に,物語が面白ければ,おそらく多くの人が「ストーリーが良かった」とか「脚本がよかった」などと表現すると思います.この場合は映像制作の中間生成物である,シナリオの出来がよかったのだろうと考えられます.「あのキャラクターがかっこよかった!」であれば,キャラクターのビジュアルか,または演技・アクションなどが良かったのだと思います.
一方で,「あの演出がよかった!」という感想の要因になるものは,「キャラクターの登場に合わせて必ず流れるBGMがマッチしていて,雰囲気が出ている」とか,場合によっては「そもそも演技をしている俳優が,キャラクターの雰囲気にマッチしている」といった配役の話すら,ひっくるめて「良い演出」と呼ばれることがあります.
この理由はある意味単純で,映像作品の場合,演出を行うのは主にディレクターだからです.ディレクターは映像コンテンツの中身の舵取りですから,映像コンテンツのあらゆる要素が演出の評価に関わってくるわけですね.したがって,演出の全てを研究しようとすると一生かかっても終わらないと思います.そこで,私が研究をする上でキーにしているのは「何をどう見せるかを考える」ということです.つまり演出の設計ですね.比較的近い言葉ではミザンセーヌです.
この演出設計に関する要素として,私はメディア学部の学生だったころに,まず照明手法の研究からはじめました.映像コンテンツの照明といえば,まず誰でも思いつきやすいのは撮影環境の再現でしょうか.わかりやすい例で言えば時間帯によって太陽光の当たる角度や色味は変わりますよね.2Dアニメでも,昼のシーンと夕方のシーンでは同じキャラクターでも色を変えて塗られています.
でも,映像コンテンツの照明は撮影環境の再現だけではありません.あえて,”リアルではない”光の当て方をして,登場人物の感情や,作品の雰囲気,さらにはストーリーの伏線を演出・表現することがあります.
私の好きな映画の一つに「第三の男」という映画があります.私が生まれるよりも前の白黒映画で,名作ですのでご存知の方も多いですよね.この映画は,個人的にはストーリーはそこまで大好きというわけではありません.ただ,要所要所の画がとても素晴らしいです.この作品の照明は,必ずしも撮影環境をリアルに再現した照明ではないと思います.しかし,光と影の作り方が,ストーリーや登場人物の感情をより引き立てていて,さすが名作と感じます.
よく研究や授業でも題材にするのですが,Dr.Winkelというキャラクターが登場するシーンでは,構図がほとんど変わらないのに俳優さんの表情に合わせて照明が大きく変わっているショットがあったりして,よーく見てみると面白いです.
まだ見たことがない方や,これから映像制作を勉強しようという方は,一度は見ると良いと思います.
(メディア学部 兼松祥央)
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