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[シリーズ難聴-9]補聴器と人工内耳

2019年11月23日 (土) 投稿者: メディア社会コース

3回にわたって「手話」の演習についてお話してきました。実は、聴覚障害者の方の中で、手話を使う方というのはごく一部の方なのです。近年では技術の進歩もあり、多くの方は補聴器や人工内耳を装用して、聴覚も活用して生活をしています。では、補聴器と人工内耳には、どのような違いがあるのでしょうか。メディア専門演習「聴覚障害理解とコミュニケーション支援」の次のテーマは、補聴器と人工内耳についてです。

<補聴器>
補聴器は音を大きくする機器です。しかし、大きくなりすぎると逆に耳を悪くしてしまいます。そのため、「フィッティング」をして、周波数(音の高さ)ごとに個々の聴力に合った音量に調整します。聴力は常に変化するので、定期的に聴力検査と共に「フィッティング」をすることが重要となります。

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図:補聴器の例

補聴器をする時は、イヤモールドと呼ばれるもので耳を完全に塞いで、耳の中に直接音を伝えます。イヤモールドが無いと音が漏れてしまい、それが耳にかけた補聴器のマイクに入るとハウリングをして「キーーーン」という音がしてしまいます。子どもの場合、耳の成長に合わせて数ヶ月ごとにイヤモールドも作り直す必要があります。

伝音難聴の多くは補聴器により聞こえを改善することが可能です。しかし、蝸牛に損傷がある感音難聴の場合などでは、補聴器の効果がないケースもあります。そこで開発が進んでいるのが次に紹介する人工内耳です。

<人工内耳>
人工内耳の仕組みは、①耳にかけた機器のマイクから音が入り、②サウンドプロセッサで音がデジタル処理され、③頭部にマグネットで装着するコイルまで音声信号が伝わり、④さらに頭部に埋め込まれたインプラントに送られ、⑤蝸牛に入れた電極から聴神経へと刺激が伝わります。

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図:人工内耳のサウンドプロセッサーとインプラント

先天性難聴児の場合、最初から聞こえるようにはなりませんが、数ヶ月たつと音が聞こえるようになり、その後発語も出来るようになり、療育を続けていけば数年で自然な発話が出来るようになる子どももいます。人工内耳をしてピアノを上手に弾く方もいます。

<補聴器や人工内耳の聞こえと情報保証>
補聴器や人工内耳をしたからといって、将来健聴者と全く同じように聞こえることはありません。これらを装用した方が「聞こえやすく」なるにすぎません。雑音下や複数で話をしている時には、特に聞き取りにくくなります。そのため、小学校の普通級に通う聴覚障害児の場合、先生に専用マイクを首から下げてもらい、ワイヤレス補聴援助システムにより声を直接補聴器や人工内耳に伝えます。また、なるべく板書をしたり、大きなディスプレイに視覚的に表示するなどといった情報保証が、学校における聴覚障害児への配慮として必要です。補聴器や人工内耳を装用した人が社会に出ていき、健聴者と共に生活をするケースが増えていくと考えられます。学校だけでなく、職場や公共施設においても、十分な情報保証をしていき、多様性のある社会を実現することが求められる時代となりました。

次回は、ICTを活用した聴覚障害者支援についてお伝えします。

 

 


メディア学部 吉岡 英樹

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略歴:バークリー音楽院ミュージックシンセシス科卒業後、(有)ウーロン舎に入社しMr.ChildrenやMy Little Loverなどのレコーディングスタッフや小林武史プロデューサーのマネージャーをつとめる。退社後CM音楽の作曲家やモバイルコンテンツのサウンドクリエイターなどを経て現職。1年次科目「音楽産業入門」を担当。現在のコンテンツビジネスイノベーション研究室は2020年度にて終了し、聴覚障害支援メディア研究室として新たなスタートを切る。

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