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専門演習「作曲演習」の紹介(第4弾)

2019年11月 8日 (金) 投稿者: メディアコンテンツコース

メディア学部の伊藤(謙)です。

私は専門演習「作曲演習」を担当しているのですが、これまでに3回(前回の紹介は4年前!)、演習の目的や学生が取り組む課題についてこのブログで紹介してきました。4回目となる本日は、学生が実際に作ったメロディの一部をお見せしたいと思います。

本演習は、「4音程度の指定音列をもとに自身でモティーフを作出し、それを展開(反復・変化)させたメロディを含む1〜3分の長さの楽曲を作ること」を目標としています。「4音程度の指定音列」は私が学期ごとに考え、毎回変わります。学生が自ら考えたオリジナルのメロディを含めつつ、指定音列を使ったメロディもどこかにあらわれるようにして作品を作るのです。完全に自由な作曲でないところが、本演習の特徴とも言えるでしょう。

先週でこの後期の全15回の授業のうちの3分の1ほどが終わったのですが、ちょうどこの時期に、指定音列をもとにしたメロディの作出の作業に入ります。作曲を全くしたことがない受講生もいるので、いきなり長いメロディを作るのは難しいことから、まずは4小節の中で短いフレーズを反復させたり変化させたりする練習課題に取り組みます。

なぜ4小節か? 一般的にメロディの冒頭2小節は「動機」または「モティーフ」と呼ばれる「独立した楽想を持つ楽曲構成の最小単位」とされ、メロディの性格や性質・特徴を規定する重要な素材となります。冒頭の2小節と、それに続く次の2小節をどのように関連づけるか試行錯誤するのは、初学者がメロディの作り方(構築の仕方)を学ぶのに取り組みやすく、それが4小節という長さを練習課題に設定している理由です。

ちなみに、「動機」を形作っている個々の小節(1小節)を「部分動機」、動機を組み合わせて作られる4小節を「小楽節」と呼びます。こうした用語も演習の中で当然触れますが、2年生の後期に開講している「音楽創作論」という授業で詳しく説明しています。この授業のシラバスも、ぜひご覧ください。

さて、この後期の受講生は上記の作業に入ったばかりですので、メロディがまだ完成していません。そこで今回は、今年の前期の受講生が実際に作った曲から抜粋してご紹介します。そのときの指定音列は「ド−レ−ファ−ソ」で、掲載した楽譜には赤色の音符で示します。


【反復型(A−A'型)の小楽節】
まずは、前半2小節と後半2小節が同型の動機によって構成される「反復型」の小楽節のメロディから見ていきましょう。前半の動機を「A」という記号で表した場合、後半が完全、あるいはほぼ同じ動機であれば「A」、若干の変化を伴うものであれば「A'」と表記されます。ここでは4名の受講生のメロディを掲載します。

【1】A(a・a')−A'(a・a'') 
<解説>
第1小節と第3小節が全く同じ形です。第2小節は第1小節とほぼ同じリズムになっているので「a'」としました。そして、
第1小節が上行するのに対し第2小節は下行する「反行形」ですが、音程構造が「長2度+短3度」で共通しているのも注目すべき点です。第4小節は第2小節のヴァリエーションと見て良いでしょう。ここを「a''」としたのは、それまでの部分動機とは異なり、フレーズの末尾で「ファ」の音が延ばされるためで、これは小さな終止感を醸し出しているようにも聞こえます。このように細かい部分に違いはあるものの、全体を通して共通したリズムと、いずれの部分動機も「ファ」の音を末尾に置いて高い統一性を形作っているのが特徴です。なお、第4小節の第1拍に置かれている「ラ」の音は、この小楽節で初めて出現する音で、かつ最も高い音ですが、小節内で最も強い拍(強拍)である第1拍に置くことで、聴き手の耳により強く印象づけるものになっています。
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【2】A(a・b)−A'(a・b')

<解説>
最初の部分動機は「ド−レ−ファ−ソ」のみで作られています。上の【1】と同様、第1小節と第3小節が全く同じ形ですが、第1小節と第2小節で音型が異なっています。また、最初の部分動機は第2小節までかかっているため、2つ目の部分動機が3拍と短くなっていることも、大きなコントラストになっています。第2小節と第4小節は音型の方向性の点では異なっていますが、ここではリズムに注目して「b」「b'」と表記しました。「a」「b」の2つの形態による部分動機で構成されているものの、いずれの小節も第3拍に「付点8分音符+16分音符」のリズムが置かれていることから、全体的に統一性が感じられます。この「付点8分音符+16分音符」のリズムは、それに続くシンコペーションの効果と相まって、軽快な印象を醸し出しています。
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【3】A(a・b)−A'(a・b')
<解説>
小楽節の構成としては上の【2】と同型です。しかし、メロディの始まりは強拍である第1拍ではなく第2拍の裏拍からです。このように曲やメロディが第1拍目以外の弱拍や弱拍部で始まることを「弱起」といいます。この「弱起」と、随所に見られるシンコペーションのリズムの相乗効果で、軽快な印象を与えるメロディになっています。また、第3小節(※弱起の小節は小節数にカウントしません)の第3拍の裏に置かれた「ド」は、この4小節内での最高音で目立ちますが、前の「ソ」の音から完全4度音程で鳴らされていることにも注目すべきです。ここに至るまで完全4度の音程で上行する音型は1つもなく、短3度が最も広い音程でした。こうした「音程の拡大」とともに「新しい情報」(高い「ド」の音)を示すことで、次の展開を聴き手に期待させる効果を生み出していると言えるでしょう。なお、ハ長調の【1】【2】と異なり、♭1つのへ長調が設定されている点にも着目したいです。
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【4】A(a・b)−A'(a'・b')
<解説>
このメロディも「弱起」ですね。ただ、3つ目の部分動機では弱起のフレーズが省略されています。その点を考慮して「a'」としました。最後を「b’」とするか「c」とするか迷いましたが、2つ目の部分動機と同じく始まりの音が「ラ」であることと、それに続くフレーズに「ラ−ソ−ファ」の音型があらわれること、そしてリズムが似ている点を重視し「b'」としました。上の【3】と同じく、最高音である「シ♭」に向けて徐々に音高が高くなっていく構成を持っていますが、この「シ♭」が第3小節の第4拍の裏で鳴らされ、次の小節にタイで結ばれてシンコペーションになっていることが、印象をより強くしています。また、どの小節にも「ソ−ファ」 の音型が置かれていることは、動機内でコントラストを生み出しながらも、統一性の維持に寄与していると言えるかもしれません。
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【変化型(A−B型)の小楽節】
次は、前半2小節と後半2小節でそれぞれ異型の動機が配置されている「変化型」の小楽節のメロディです。第1小節と第3小節に着目して前半と後半の動機を見ると、形態が大きく異なることから、前半の動機「A」に対し後半の動機は「B」と表記します。ここでは2名の受講生のメロディを掲載します。

【5】A(a・b)−B(c・d)
<解説>
16分音符による音型が弱起で始まる非常に印象的なメロディです。16分音符で駆け上がったあとに、それとは対照的な大きい音価の付点2分音符を持つ部分動機を「a」とし、「b」「c」「d」とそれぞれ違う形の部分動機で構成されています。「b」の後半から、加線を伴った低い音域に移行し、それが「c」「d」に引き継がれます。「b」と「c」では16分音符と8分音符の組み合わせによるシンコペーションのリズムが共通点として見られ、特に「c」では「ファ−ソ−ラ」の音型が全く同じリズムで反復される点で、異なる部分動機の形態でありながら、統一性も感じられます。そういった点を捉えると冒頭の「a」の部分動機の独自性がさらに引き立ってきますし、何気ない「d」の音型も、小楽節のフレーズを締めくくる役割を担っているように聞こえてくるのではないでしょうか。
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【6】A(a・b[またはa'])−B(c[またはb])
<解説>
最初の部分動機は 【2】と同様、「ド−レ−ファ−ソ」のみで構成されています。続く部分動機「b」は、上行する「a」とは対照的に下行する音型です、完全に一致する音型ではないものの、反行形にも見えますね。また、弱起による8分音符のリズムも共通することから、「b」ではなく「a'」と見なしても良いでしょう。これに続く後半の動機Bは動機Aと非常に対照的で、細かく動く音型を一切含みません。ご覧の通り、動機Bは2つの部分動機に分け難い形態で、それ自体で独立した1つの大きなフレーズを作っています。また、拡大された部分動機c(あるいはb)と見ることもできると思います。このようにAとBの動機の差異が明確ですが、aとcに着目すると、どちらもフレーズの終わりに長く延ばされた「ソ」の音を伴っており、その点で、似た様相も感じられるかもしれません。なお、♭3つの調号が用いられているので、上記5つのメロディとは少しニュアンスが違って聞こえることでしょう。
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以上6名のメロディをご紹介しましたが、どれも「反復」と「変化」の原理を工夫して盛り込みながら「ド−レ−ファ−ソ」 の音列を展開していることがおわかりいただけたと思います。何より、同じ「ド−レ−ファ−ソ」 の音列を素材としながら、それぞれ音楽的な特徴を持つメロディが作られているのは面白いと思いませんか? この6名以外の受講生も、とても魅力的なメロディを作っています。その全てを掲載できず、完成した作品をお聞かせできないのは残念です。

この後期の受講生は、また違った音列で作曲に取り組んでいますが、どのような作品が生まれるか担当教員として非常に楽しみです。


【関連情報】
・ブログ記事[2014年7月10日]:専門演習「作曲演習」
・ブログ記事[2015年7月3日]:専門演習「作曲演習」の紹介(第2弾)(※担当教員による作例紹介あり)
・ブログ記事[2015年7月29日]:専門演習「作曲演習」の紹介(第3弾)
・シラバス[後期]:メディア専門演習II(作曲演習)
・シラバス:「音楽創作論」


(伊藤謙一郎)

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