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[シリーズ難聴-10]ICTを活用した聴覚障害者支援

2019年11月24日 (日) 投稿者: メディア社会コース

今回で「難聴シリーズ」の連載も最後となります。10月から新しく始まったメディア専門演習「聴覚障害理解とコミュニケーション支援」では、「聞こえないフィールドワーク」「指文字と手話の習得」を通じて、聴覚障害者の気持ちを少しでも理解する努力をしました。特に、耳栓をして手話で会話をした際には、慣れない視覚のみのコミュニケーションだと不安になることを実感しました。私たちの社会は聞こえることを前提に設計されていますので、聞こえにくい方の立場を少しでも理解できたのではないでしょうか。また、技術の進歩により補聴器や人工内耳が普及していることも学びました。しかし、健聴者と同じように聞こえる訳ではなく、雑音下や複数による会話の際には苦労があることも知りました。

メディア学部の学生としては、ここからが重要な演習となります。大学で学んだ情報工学を生かして、聴覚障害者にどのような支援が出来るかを提案してもらいます。そこで、まずは現在どのような支援が実現されているのかを2つご紹介します。

<会話のテキスト変換>
聴覚障害の学生が大学で授業を受ける際に、ノートテーカーと呼ばれる学生が先生の話をパソコン上でテキスト変換する支援があります。これを音声認識技術を使って自動的に行うアプリがあります。

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図:会話の見える化アプリ「UDトーク」

このアプリがあれば会話をリアルタイムに文字化して表示することが出来るので、聴覚障害の方への情報保証が可能となります。このアプリには翻訳機能もあるので、聴覚障害者への支援だけでなく、多言語間のコミュニケーションにも役立ちます。

しかし、コンピュータによる自動変換の場合、変換ミスもありますので、それを人間が見つけて修正するという仕組みになっています。また、優秀なノートテーカーは先生の話を全て文字化するのではなく、必要な箇所だけを伝えます。先生の言い間違いや言い直した箇所などまでテキスト化してしまうと、情報が多すぎて目で追うのに疲れてしまいます。将来的にはAI(人工知能)を使って、効率的にテキスト化することが期待されます。

<音を振動で伝えるデバイス>
携帯電話のマナーモード時は電話やメールの着信を振動で伝えてくれます。これを応用した聴覚障害者支援デバイスがあります。

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図:Ontenna(オンテナ)

富士通が開発したオンテナは、音を体で感じることが出来るため、聴覚障害者のコミュニケーションを助けたり、音楽や音響による表現を伝えることが出来ます。写真にある白いデバイスを髪の毛や着ている服などに付けて、音を振動と光で感じとります。これまでに音楽やスポーツのイベントで実証実験を行なっており、聞こえない人でもこれまでにない体験が出来ることを証明しています。すでにろう学校に無償提供されており、新しい形の教育支援インターフェイスとしても期待されています。

現状では、大きな音全てに反応して振動が伝わりますが、テキスト変換アプリと同様に、必要のない振動もあると考えています。健聴者は脳の中で、重要な音とそうでない音を聞き分けて、必要な情報だけに反応をしています。それは音の大きさではなく、音色や音が発する意味と関連づけられています。オンテナも、音をAI(人工知能)を使って解析し、重要な音を選択して振動で伝えることが出来るようになれば、今以上に便利なデバイスとなるでしょう。

最後になりますが、7回にわたる「難聴シリーズ」をお読みいただきありがとうございました。「聞こえることがあたりまえの社会」から、「聞こえにくくても安心な社会」へと進歩するために、何をすれば良いのかを考えるきっかけになれば幸いです。技術を活用することも重要ですが、私たち一人一人の考え方を変えることが大切かもしれません。

 

 


メディア学部 吉岡 英樹

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略歴:バークリー音楽院ミュージックシンセシス科卒業後、(有)ウーロン舎に入社しMr.ChildrenやMy Little Loverなどのレコーディングスタッフや小林武史プロデューサーのマネージャーをつとめる。退社後CM音楽の作曲家やモバイルコンテンツのサウンドクリエイターなどを経て現職。1年次科目「音楽産業入門」を担当。現在のコンテンツビジネスイノベーション研究室は2020年度にて終了し、聴覚障害支援メディア研究室として新たなスタートを切る。

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