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[シリーズ難聴-4]メディア専門演習「聴覚障害理解とコミュニケーション支援」スタート

2019年11月18日 (月) 投稿者: メディア社会コース

本日より7回にわたり「シリーズ難聴」を連載します。メディア学部設立以来初めてとなる聴覚障害支援に特化した演習が10月から始まりました。工学系の大学で聴覚障害と関連した演習を行う例はあまりありません。しかし、メディア技術が導入しやすい時代になったからこそ、専門を超えて新しいアイディアを生み出すことが大切だと考えています。医学と情報工学は分野が離れているだけに、その接点を探るのはなかなか難しいものです。しかし、医学というのは自分の体に関係するもの、情報工学もスマホなどを通じて日常的に触れているものです。それらの接点が自分にあると考えれば、様々な可能性が見えてくるでしょう。

ブログ「[シリーズ難聴-2]情報工学系のメディア学部で聴覚障害支援の演習をやる意義。」でも述べたように、この演習ではまず聴覚障害への理解を深めることから始めます。耳栓をして聞こえにくい状況を体感したり、手話や指文字を使って聴覚に頼らないコミュニケーションを体験したり、補聴器や人工内耳についてインターネット調査を行ったりします。その後、音声をリアルタイムにテキスト化するアプリや、音声を振動に変換して伝えるデバイスなど、現存する聴覚障害支援ツールを実際に使ってみます。最後に、聴覚障害支援に相応しく新しいアイディアを提案します。

今回は、初回に行ったフィールドワーク「聞こえにくい状況の体験」についてお伝えします。

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図:「フィールドワーク」の授業資料

図のように、研究室(①)で耳栓をしてスタートし、キャンパス全体を歩いてまわります。耳栓をすると、早速エアコンの音や(あえて流していた)音楽の音が小さくなり、ほとんど聞こえなくなります。次に廊下に出て歩いてみます。耳栓を外すと足音が聞こえますが、耳栓をするとほとんど聞こえません。

耳栓をしてエレベータ(②)を待っていると、いきなりドアが開きます。機械音がほとんど聞こえないからです。エレベータの中のアナウンスは意外と聞こえました。声の周波数は人間にとって聞こえやすい音域のため、耳栓をしても聞こえるのですね。その後、建物の中から外に行くと(③)何か違和感があります。普段は環境音によって屋内と屋外の雰囲気を感じ取っているのが、耳栓をしているとその違いを感じないのです。

その後、いつものキャンパスを歩いていると(④)、中には友達とすれ違う人もいます。しかし、相手が何を言っているのか分かりません。後ろから声をかけられても分からないでしょう。コンビニや食堂(⑤)を通り抜けたところに庭園(⑥)があります。耳栓をとってみると、鳥のさえずりや虫の鳴き声が聞こえます。遠くでは芝刈り機のような大きな音も聞こえます。聞こえないくい状況では、これらの音もほとんど聞こえません。

最後に片柳研究所のロビー(⑦)に行きました。そこは2階までが吹き抜けになった教会のような空間で、普段なら音が響き渡るのが分かります。耳栓をしていると、天井の高さや硬い材質で出来ているロビーの雰囲気を感じとることが難しいことが分かります。

終了後のレポートでは、「普段いかに音による情報に頼っているかが分かった」「聞こえないと不自由を感じることを初めて実感した」といったようなコメントが見受けられました。

さて、次回のブログでは、聴覚障害者のコミュニケーション手段の一つである「指文字」の演習についてお伝えします。

 


メディア学部 吉岡 英樹

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略歴:バークリー音楽院ミュージックシンセシス科卒業後、(有)ウーロン舎に入社しMr.ChildrenやMy Little Loverなどのレコーディングスタッフや小林武史プロデューサーのマネージャーをつとめる。退社後CM音楽の作曲家やモバイルコンテンツのサウンドクリエイターなどを経て現職。1年次科目「音楽産業入門」を担当。現在のコンテンツビジネスイノベーション研究室は2020年度にて終了し、聴覚障害支援メディア研究室として新たなスタートを切る。


 

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