メディア学の体系化のための教科書刊行
2019年12月18日 (水) 投稿者: メディアコンテンツコース
メディア学部20周年の記録をまとめて発行する計画が進んでおり、12月中には発行予定です。その中にメディア学部の多くの先生がかかわってきた教科書についても書いています。ここでは、それをより詳しくして紹介します。
1.メディア学部創設からの夢
メディア学部,初代学部長,前学長の相磯 秀夫先生が「メディア学大系」教科書シリーズの刊行に寄せて、次のように体系化の必要性を書いている。
『未来社会におけるメディアの発展とその重要な役割は多くの学者が指摘するところであるが,大学教育の対象としての「メディア学」の体系化は進んでいない。』
そして、メディアについて次のように述べている。
『東京工科大学は1999年4月世に先駆けて「メディア学部」を開設した。ここでいう,メディアとは「人間の意思や感情の創出・表現・認識・知覚・理解・記憶・伝達・利用といった人間の知的コミュニケーションの基本的な機能を支援し,助長する媒体あるいは手段」と広義にとらえている。』
さらに、メディア学部の充実した教育から学問的基礎が確立できる見通しも示している。
『「文・理・芸」融合のメディア学部は創立から13年の間,メディア学の体系化に試行錯誤の連続であったが,その経験を通して,メディア学は21世紀の学術・産業・社会・生活のあらゆる面に計り知れない大きなインパクトを与え,学問分野でも重要な位置を占めることを知った。また,メディアに関する学術的な基礎を確立する見通しもつき,歴年の願いであった「メディア学大系」の教科書シリーズ全10巻を刊行することになった。』
大学は学問を作るところである。創設当時には参考になる教科書がなく、教員が先端的な研究を行い、その成果を教育に生かしてきた。そして、それらの内容をまとめてメディア学の体系化を進めてきた。この成果をもとに2011年にメディア学をまとめた教科書シリーズの執筆の計画が始まった。メディア学大系とメディアキーワードブックを合わせた20冊の刊行は、20年間の研究と教育成果をもとに体系化を進めるうえで重要なメディア学部の活動であった。メディア学大系の刊行を実現していただいたコロナ社に深く感謝する。
2.メディア学大系の第一期刊行
第1巻のメディア学入門のまえがきには著者らが次のように書いている。『本書は,メディア学という新しい学問領域について学ぼうとする学部学生を対象とした教科書である。本書で取り扱うメディア学は,社会学の分野で従来から扱われてきたメディア論やメディアコミュニケーション研究の基本概念を包含し,また一方でマルチメディアと呼ぶ画像,映像,音声,文字などのデジタル情報とその処理技術の基礎を包含する。さらに,21世紀に入って展開が著しいインターネット環境下の社会変革と新しいメディア社会に関する考え方を含む。その意味で,本書が対象とする領域は文系・理系という範ちゅうを超えて,インターネットの世界に展開される人間の諸活動全体をも含んでおり,諸学問横断的な視点で新しいメディア社会を理解してもらうことが本書のねらいである。そして,メディア学の学びは,より良い社会を考え,技術的にも,理論モデル的にも,その実現を目指すことにほかならない。メディア学の学びにおいて,その対象となる領域ならびに枠組みをとらえることが重要であり,本書ではメディア学の対象をメディアの送り手と受け手のほかに,伝達対象,伝達媒体,伝達形式の3要素を導入し,メディアの基本モデルを設定してメディア学の全体を論じるようにした。さらに,最新のメディアを生かしたサービスを理解してもらうために,モバイルコミュニケーション技術や映像コンテンツ制作技術などについて解説し,メディア社会のいまを理解してもらうように努めた。』
第1巻は「メディア学入門」として、メディア学部の教育内容を理解するうえで大切な考え方や技術を取り上げている。この考え方をもとに、第一期の10巻が次のように計画され、刊行された。
第1巻「メディア学入門」飯田仁・近藤邦雄・稲葉竹俊 (2013年3月)
第2巻「CGとゲームの技術」三上浩司・渡辺大地(2016年4月)
第3巻「コンテンツクリエーション」近藤邦雄・三上浩司 (2014年10月)
第4巻「マルチモーダルインタラクション」榎本美香・飯田仁・相川清明 (2013年10月)
第5巻「人とコンピュータの関わり」 太田高志 (2018年2月)
第6巻「教育メディア」稲葉竹俊・松永信介・飯沼瑞穂 (2015年4月)
第7巻「コミュニティメディア」進藤美希 (2013年5月)
第8巻「ICTビジネス」榊俊吾 (2015年4月)
第9巻「ミュージックメディア」大山昌彦・伊藤謙一郎・吉岡英樹 (2016年9月)
第10巻「メディアICT」寺澤卓也・藤澤公也 (2013年10月)
3.メディア学大系の第2期の計画と刊行
第1期の執筆が進んだ2015年に至り,メディア学の普及と進歩は目覚ましく,「メディア学大系」もさらに増強が必要になった。そこで,メディアにおける重要な分野である視聴覚情報の新たな進歩に対応するため,つぎの5 巻を刊行することを計画した。すでに第13巻、15巻が刊行されており、講義や演習で活用されている。
第11巻「CGによるシミュレーションと可視化」 菊池司,竹島由里子
第12巻「CG数理の基礎」 柿本正憲
第13巻「音声音響インタフェース実践」相川清明,大淵康成 (2017年3月)
第14巻「映像表現技法」 佐々木和郎,羽田久一, 森川美幸
第15巻「視聴覚メディア」近藤邦雄,相川清明,竹島由里子 (2017年6月)
4.メディア学キーワードブックの発行
2015年後半には、「メディア学」に興味を持つ学生がメディア学全体を見渡すことができ,メディア学大系各巻への橋渡しをも意識した「メディア学キーワードブック」を出版することを計画した。これから「メディア学」を学ぶ大学生,「メディア学」に興味を持つ高校生が,より専門的な勉強がしたくなるよう,「メディア学」分野の興味深いキーワードをまとめることとした。本書は、学生に興味を喚起させ、より専門的な記述のあるメディア学大系への橋渡しをする役割を担う。2017年2月には執筆者と分野の決定を行い、さらに、下記の3つの分野から、総数100近いキーワードを洗い出した。
1.メディアコンテンツ:映像制作、アニメーション、ゲーム、シミュレーション、視覚情報デザイン、音楽
2.メディア技術:コンピュータグラフィックス、音声音響、ヒューマンインタフェース、コンピュータシステム、コンピュータネットワーク、
3.メディア社会:社会・経済情報、ソーシャルデザイン、ビジネス・サービスデザイン
2017年4月に原稿執筆依頼、7月21日締切、2018年3月刊行という日程でメディア学キーワードブックの執筆が始まった。メディア学部教員の監修・編集委員13名、執筆者20名による書籍は、予定通り刊行できた。キーワードは目次にもなっており、コロナ社のホームページからダウンロードできる。この目次にあるキーワードを学ぶたびにチェックでき、メディア学の理解の範囲を確認できる。現在一年生の導入教育の一環としてフレッシャーズゼミで利用している。
5.メディア学大系の第3期の計画
2017年になり第2期の執筆が進み、15巻を見たとき、今後、メディア学の高度化を支える基礎学問の充実が望まれた。そこで、数学、物理、アルゴリズム、データ解析の分野において、メディア学全体の基礎となる教科書4巻の刊行を計画した。メディア学の視点で基礎的な内容をまとめるために「メディアのための」と題した書名とし、従来の教科書の内容との違いを明確にした。また、発展を続けるメディア分野に対応でき、将来にも活用できるように基礎的内容を扱っている。
第16巻 「メディアのための数学」松永信介,相川清明,渡辺大地
第17巻 「メディアのための物理」大淵康成,柿本正憲,椿郁子
第18巻 「メディアのためのアルゴリズム」藤澤公也,寺澤卓也,羽田久一
第19巻 「メディアのためのデータ解析」榎本美香,松永信介
これらは、一年生向けに,メディア学入門、メディアICT、マルチモーダルインタラクション,CGとゲームの技術,ミュージックメディアなどが講義や演習,先端メディア学などで教科書として指定されている.2年生以上ではマルチモーダルインタラクション,CGとゲームの技術,コンテンツクリエーション,人とコンピュータの関わり、教育メディア、ICTビジネスなどが指定されている.
大学院メディアサイエンス専攻 近藤邦雄
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