新型コロナウイルスの影響により聴覚障害者が困っていること
2020年5月28日 (木) 投稿者: メディア社会コース
聞こえる人が、聞こえない人や聞こえにくい人が困っていることに気づくことは、なかなか難しいことです。なぜなら、私たちは幼児期にいつのまにか音を認識するようになり、言葉を覚え、音声でコミュニケーションをとるようになります。どうやって言葉を覚えたか、記憶にはないのです。
だからこそ、聞こえない人や聞こえにくい人が、どのような事で困っているのかを知る努力をする必要があります。そうすることで、ダイバーシティ社会(多様な人々を受け入れることが可能な社会)を実現することができます。政府の政策や法律なども重要ですが、私たち一人一人が少しずつ知識を増やし、行動することで、より良い社会になるのです。
このブログでは、新型コロナウイルスの影響により聴覚障害者が困っていることをご紹介します。
1)パラリンピック・レポーターの後藤佑季による動画
聴覚障害があり人工内耳を装用している後藤佑季さんが、手話も交えながら、聴覚障害者の片方がどのようなことで困っているかを解説している動画です。特に、マスクをしていると口元が見えないため、相手が言っていることが分からくなります。ジェスチャーや筆談など、視覚的なコミュニケーション手段を活用するのが有効です。
[新型コロナウイルス] 聴覚障害者からのお願い | おはよう日本 | NHK
2)フェイスシールドを付ける手話通訳者
新型コロナへの対応について安倍首相が会見を開く機会が多くなりました。とても重要な情報ですので、聴覚障害者のために手話通訳者がつくようになりました。実は、全国の知事の会見などでは全てに手話通訳者がついているとは限らず、聴覚障害者の方々が要求して、手話通訳者がつくようになってきました。
最初のころは、手話通訳者の方がマスクをしていたのですが、先ほども述べたように、口元の情報が伝わらないため、聴覚障害の方は困っていました。そこで、手話通訳者の方がフェイスシールドをするようになったのです。手話は手の動きだけでなく、口元や表情で伝える表現も多いため、顔の一部を覆う訳にはいかないのです。以下の記事でも紹介されています。
手話通訳者 “透明シールド”で政府会見に / 日テレニュース24
3)リアルタイムに字幕をつけるアプリ
テレワークや遠隔授業が増えたことで、ビデオ会議サービスの利用が増えました。聞こえない人はもちろん困りますが、補聴器や人工内耳である程度聞こえたとしても、インターネットを介した音声は音質が悪く、とても聞き取りにくいものです。そこで、音声をリアルタイムに文字化してくれるテクノロージが役に立ちます。
スマートフォンにインストールして、ビデオ会議の時にパソコンの横に置けば、聞こえてくる話をテキストに変換してくれます。誤変換もあるので、可能であれば編集者を用意して、修正するのが望ましいです。大学の授業であれば、ノートテイカーと呼ばれる学生アシスタントにお願いすることがあります。
ブラウザのGoogle Chromeで、このURLにアクセスするだけで、話している言葉を文字化してくれます。文字の大きさなどを変更することも可能です。
いずれのツールも、聞こえる人が使うもので、ビデオ会議のメンバーに聴覚障害者がいる場合には、このような配慮をすることで一緒にコミュニケーションをとることが出来ます。
これまで研究を進めている中で興味深いのは、聴覚障害者への配慮として考えられていたことが、実は聞こえる人にも役に立つということです。私の講義でUDトークを使って、私が話していることをリアルタイムに文字化してみたところ、受講生約250名のうち、8割以上が「字幕があった方が理解しやすい」と答えました。
図:「Q. 授業を理解するのに字幕は役に立ちましたか」の回答
人の認知特性には、視覚優位と聴覚優位があるそうです。視覚優位の場合は、字幕があった方が理解しやすくなります。近年では視覚優位の人が増えているという研究もあります。字幕があることで、聞き逃した事や、聞こえたけど自信のない箇所を確認することが出来るため、多くの人に役にたつようです。
オンラインでのやりとりにおいて字幕をつけるなどの視覚的な情報保障をすることは、聴覚障害者のためだけということではなく、多くの人に役立つのかもしれません。
メディア学部 吉岡 英樹
略歴:バークリー音楽院ミュージックシンセシス科卒業後、(有)ウーロン舎に入社しMr.ChildrenやMy Little Loverなどのレコーディングスタッフや小林武史プロデューサーのマネージャーをつとめる。退社後CM音楽の作曲家やモバイルコンテンツのサウンドクリエイターなどを経て現職。1年次科目「音楽産業入門」を担当。現在のコンテンツビジネスイノベーション研究室は2020年度にて終了し、聴覚障害支援メディア研究室として新たなスタートを切る。
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