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もっと抽象的にわかりやすく

2020年9月 1日 (火) 投稿者: メディア技術コース

 抽象化について、日頃から思っていることを話します。先日、学部一年生向け講義「メディア学入門」の最後の授業回で、メディア分野の各種歴史を簡単に紹介しました。
 
 歴史には必ず因果関係がある、という話をしました。そして、二つの歴史的事実の因果関係を現在と未来の事象に当てはめることができる場合がある、という話題の中で「歴史的事実を表層的に理解しただけでは得られる結論も凡庸になる」という説明を加えました。
 
 これに対して受講生から「表層的でない理解とは何ですか」という質問がありました。
 
 それに対する回答は「抽象的な本質の理解」です。「猿も木から落ちる」と「弘法も筆の誤り」を表層的に理解しただけでは、二つに共通する抽象的な教訓、つまり本質を理解したことにはなりません。歴史的事実も同様です。
 
 私の回答はここまででした。蛇足かもしれませんが補足すると、前記二つの各要素を抽象化すれば、「木」と「筆」は専門分野であり、「猿」と「弘法」はその分野での一流の人であり、「落ちる」と「誤り」は失敗ということになります。達人もたまには失敗する、ということですね。
 
 歴史的事実に限らず、抽象化は、物事を考えたり理解したりするときに常に考慮すべき重要ポイントです。
 
 加えて、物事を説明する際にも抽象度は重要です。例えば、専門分野のやや難しい概念をスライドで説明する場面を考えてみましょう。
 
 説明内容が抽象的すぎて理解してもらえない、というのはよくあることです。その場合は少し具体的な例を使って説明すればよいことになります。この対処は比較的容易ですが、本当に良い例を見つけることは難しいです。下手な例を使うと理解してもらえないだけでなく、完全に間違った理解をさせてしまう危険性があります。
 
 一方で、説明が具体的すぎて本質を理解してもらいにくい、という事態もときどき生じます。抽象化した説明で置き換える必要があります。とは言っても、具体化に比べて抽象化は難しいです。そもそも当人が本質を正しく理解しておくことが不可欠です。そのためには普段物事を考える際にも、本質を意識して自ら訓練する必要があります。
 
 学生や大学院生が自分の研究発表のスライドを作る際に、説明は間違いではないのだが発表スライド文脈に照らし合わせると今ひとつ意図が伝わらない、という場合があります。抽象度を調節することで格段に良くなります。
 
 先日も学生の研究発表会で「もっと抽象的にわかりやすく説明してもらえますか」とつい質問してしまいました。本当に具体的すぎて何が言いたいのかわからなかったからです。
 
 ここまでのこの文章も、なるべく理解してもらえるような抽象度を考えて説明したつもりです。具体例を示したところもあれば、あえて抽象的な説明にとどめたところもあります。良い具体例が見つからず、抽象説明だけになった部分もあります。本質を理解してもらえれば幸いです。
 
【参考文献】
 吉田塁,2016年, スーパープログラマーに学ぶ最強シンプル思考術,ディスカヴァー・トゥエンティワン.
 柿本,大淵,三上,進藤,2020年,改訂 メディア学入門,コロナ社.
 
メディア学部 柿本正憲

 

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