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バンドデシネ・博士課程学生の憂鬱(本の話 #3)

2020年10月14日 (水) 投稿者: メディア技術コース

 バンドデシネ(bande dessinée)ってご存知でしょうか?簡単にいうとフランスの漫画です。本の話#2で、アメリカの新聞に掲載されるコミック・ストリップの話題を書きましたが、それに続いて漫画の話第二弾です(でも漫画ばかり読んでいるわけではありませんよ…)。

 

バンドデシネと日本の漫画の違うところは、大人向けだというところです(変な意味ではなく…)。もちろん日本の漫画も大人が読みますし完全に大人向けのものもありますが、漫画というジャンル自体は子供が読むものとしてスタートして発展してきたのではないでしょうか(ですよね?)。バンドデシネは、そもそも大人向けのものとしてあるようです。それに伴って色々な違いがあります。バンドデシネの作品は大型のハードカバーの本で、一年に一巻のペースででるようなもののようです。オールカラーのものもあるようです。また、コマ割りは日本のマンガのように色々な形や大きさがあって、それ自体が表現手法の一つとなっているかと思いますが、バンドデシネは基本的に長方形に区切られているだけです。映画になった作品も多くあるので、原作をしらなくても名前を聞いたことがあるものも多いのではないでしょうか(タンタンの冒険、スノーピアサー、ヴァレリアン、…)。日本のマンガに比べてセリフ、というか文字が非常に多いようにも思います。最近はマンガの影響で文字が少ない作品もあるようですが、タンタンなんて文字がびっしりで、老眼だとハ◯キルーペみたいなメガネ(コンビニで数百円で買ったやつ)無しでは全く読むことができません。

 

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今日はそのなかでも、最近見つけた本を紹介いたします。原書ではなく日本語に翻訳されたものですが(原語を購入しようとすると郵送料も含めて非常に高価)「博論日記」という作品です。「博論」とは博士論文のことですね。博士号をとるには大学を卒業して、大学院の修士課程を2年経て、その後3年(早くて)かかるとされているものですが、フランスにおける博士課程の学生の奮闘と悩みと絶望と…、を書いたものです。やはり大学の教員として、自信もかつて行ったこともありますし、現在指導をしている学生も居るということでこのテーマには興味を持ちました。これを読むと国は違っても大学院生の生活や悩みなど共通していることが多いのだと思います。一方で、教授が全然学生の面倒をみなくて楽そうだなあと思ったり(でも、自分の経験を振り返ってみるとそんなものだった気がしますね…)。この作品の主人公はかなり不当な扱いを受けているように見えますが、自分自身でも研究のプレッシャーで周りの人(特に彼氏、主人公は女性です)にあたるようにもなっていき、人間関係がうまくいかなくなっていきます。博士課程に入った学生達の入学時と終了時の顔がRizapの前後を逆にしたような感じで描かれてもいます。

 

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年を経るたびに顔がくたびれていく院生達

 

 

この作品の絵はけっしてうまいものではないですが、バンドデシネの作品は綺麗なものが多いように感じます。また、大人向けということで、アメリカンコミックのようなヒーローものよりもストーリー的に凝ったものが多かったり、テーマも多彩だと思います。残念なのは、日本から入手するのが少々高価であるということです。今は電子版もあるようですから、試してみようと思っています。

 

一方、フランスでは日本のマンガやアニメが大流行ですね。何年か前にパリで行われるJapan Expoという催しに参加したことがあるのですが、日本のマンガが盛大に売られている会場をコスプレしたフランス人が大量に闊歩していました(フランス人がヲタ芸?もしていました。見ものでした)。バンドデシネはあっても日本のマンガのようなジャンルがなかったということかもしれません。最近では互いに影響を受けた作品が発表されているようで、日本のマンガのような表現(多様なコマ割りや絵を中心にした表現)のバンドデシネがでてきたり、バンドデシネのような絵柄の日本の作品がでています。

 

(ネタばれ)

さて、博論日記の主人公は7年かけて博士号を取得できたように見えるところで終わりますが、その先の未来が明るい兆しがあるようには描かれていません。何年かを実社会の経験を積むのではなく学問的な追求に何年も費やして、その先にどのような可能性があるかということについてはこの作品ではむしろ曖昧で、むしろさらなる困難が待っているような感じを匂わせて終わってしまいます。そうしたことは今の日本でも似たような状況があるかもしれません。しかしながら、何の仕事であれ、資格さえとれれば何とかなるわけではないということの一部なのかもしれません。

 

 

 

太田高志

 

 

 

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