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架空論文例でみる研究論文の構造

2020年11月28日 (土) 投稿者: メディア技術コース

 高校生の皆さんや大学3年生までの皆さんは、研究論文と聞くと何か難しいだけという印象を持つかもしれません。確かにその分野の専門知識を読者が持つ前提なので普通の人には難しいです。でも、研究論文には共通する構造があり、それを知っておくと大まかな把握がしやすくなります。
 
 もちろん、この構造は将来卒業論文や修士論文を書くときに守るべきことです。ちょうど今頃は学部4年生、修士2年生は執筆の佳境に入った時期ですので参考にしてください。
 
 論文のあるべき構造には"IMRaD"という名前がついています。これはIntroduction(導入), Method(手法), Result(結果), and Discussion(議論考察)の略です。これは何百年も学術研究発表が続いてきた中で確立されたものです。
 
 自分の研究成果の価値をその分野の専門家に認めてもらうための論理構造です。少なくとも科学技術分野の論文ではこれが標準になっています。この理屈自体はそう難しいものではなく、高校生の皆さんにもわかるものだと思います。
 
 以下、架空の研究論文を想定し、一般的にどういう理屈で同業の専門家の読者を納得させるのか例示してみます。カッコ内は読者が読みながらどう思うかを書いてみました。工学系、情報系の分野全般に当てはまる想定ですが、自然科学系の実験論文でも基本的には同様です。
 
●導入(Introduction)
今この分野ではこんなことがよくあるよね。
    (ああ、流行ってるよね、たしかに)
その中でこんなことが問題だよね。
    (あれはちょっと良くないね)
いろんな人が解決しようとしてるけど、うまく行っていないことが多いよ。
    (なるほど、少し知ってはいたがいろいろやられてるんだ。まだまだなのね)
そこで、もしこんなことができれば解決するよね。
    (確かにそうだが、どうやってできるのかね)
この問題、こんな方法で解決できるよ。世の中のためになるでしょ?
    (へえ、じゃあ続きを読ませてもらおうか)

●手法(Method)
基本的なアイディアはこれよ。
    (ああなるほど、でも言うのは簡単だけどどうやるのよ)
こんな方法とこんな方法を組み合わせれば効果あるよ。
    (ほお、そういう手があったか)
理論上はこういう結果になるはずだよね。
    (まあ理屈はそうだね。実際やってみないとね)
こういうように準備すれば試せるよ。
    (うん、そういうのなら用意できるね)
この辺の難しいところは、例のああいう方法を使えばいい。
    (あ、よく使うやつね)
最後はこんなやり方でうまくできるよ。
    (確かに。自分でもやってみようかな)

●結果(Result)
実際やってみたよ。使ったのはこんな前提。
    (ああ、それなら現実によくある条件だな)
こういう風な条件だとこんな結果になったよ。
    (こんないい結果なのか、この方法)
別の例だとこんな結果になる。
    (なるほど、これは使えそうだね)
いままでいろんな人が解決しようとした結果と比べるとこんな感じ。
    (確かにいままでの研究よりもいい結果だね)

●考察(Discussion)
いま示した結果で、最初に示した問題は解決してるよね。
    (そうね、まあ、条件は限られるが)
ただ、こういう場合はうまく行かないんだ。
    (そうだろうな、けど実用的にはいいんじゃないの)
でもたいていの場面で使えるよ。世の中のためになるでしょ。
    (いいところに目をつけたな)
今後の課題や発展形はこれです。
    (その部分、自分がやってみようかな)
    
 この例では、読者はある程度は納得しているようです。本当によい研究論文だと、上記「手法」の中の「そういう手があったか」の部分のインパクトが大きくなります。
 
 またこの例では、解決すべき問題はよく知られた問題という想定です。すぐれた研究の中には、誰も着目していなかった問題を掘り出す問題発見型もあります。
 
メディア学部 柿本正憲

 

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