「音楽創作論」での作曲
2020年12月31日 (木) 投稿者: メディアコンテンツコース
皆さん、こんにちは! メディア学部の伊藤(謙)です。
私の担当科目「音楽創作論」(今年度は、対面と遠隔のハイブリッド開講です)では、学生から楽曲のアイデアを募集し、それをもとに私が作曲するイベント(?)を毎年行っています。昨年度の授業での作曲については、こちらのブログ記事をご覧ください。
メロディの構成に焦点を当てて、古今東西さまざまな曲を紹介しながら楽曲構成を解説する講義ですが、私が実際に創作して示すことで、講義内容の理解がさらに深まると好評(らしい)です。このイベントの重要なポイントは、私が勝手に作るのではなく、それぞれの学生が短いフレーズを作り、その後の展開も学生の意見を取り入れていることにあります。
曲の作り方はいろいろありますが、ここでは「ミクロ」(ちょっとした音の並び)から「マクロ」(音楽作品)への流れで作曲していきます。そのために、学生たちと次のようなやりとりをしてきました。
【1】「ソ」の音から始まるフレーズを募集:学生による「部分動機」(1小節)の作成(楽譜作成ソフトMuseScoreを使用)[第8回授業]
【2】90名から寄せられた「部分動機」の掲示と投票[第9回授業]
【3】選ばれた「部分動機」の発表と、その「部分動機」をもとに学生による「モティーフ(動機)」(2小節)の作成[第10回授業]
【4】93名から寄せられた「モティーフ」の掲示と投票[第11回授業]
【5】選ばれた「モティーフ」の発表[第12回授業]
【5】のモティーフを以下に示しましょう。(※このモティーフをもとに私が作曲します)
赤く示されている部分動機は【2】の投票で最多の8票を獲得して選ばれたE君が作ったものです 。この部分動機を作るにあたってのE君の意図は次のようなものでした。
(1)冒頭の強拍に休符を置くことで聴き手の興味を惹きつける。
(2)第2拍の裏に8分休符を入れて間延びを避け、軽快さを醸し出す。
(3)第3拍に最高音(1オクターブ上の「ソ」)を長く響かせ、部分動機内でのアクセントとなるようした。
ちなみに、E君の部分動機に投票した人の投票理由は以下の通りです。
・リズムが独創的であり、メロディの意図も読み取れたため。
・8分休符と4分休符がどのような雰囲気を出せるのかその可能性を知りたくなったから。
また、休符が絶妙な位置にあるので、動機をつくる際に色々工夫ができると考えたから。
・シンプルながらも洗練されたモチーフであったから。
・休符を多く使うという独創性を感じた。また、動機の説明部分に作者の思いを感じた。
・冒頭の最初に休符を持ってくることで他のものとは違う良さがあると思いました。
また、裏拍子というのも個人的にとても好きなので惹かれた。さらにアクセントなどもあり、
小さな動機の中にたくさんのポイントがあってとてもいいと思った。
・始まりの弱起以外に2種類の休符を使っていたので面白そうだと思いました。
・軽やかな始まりで心地よく感じたから。
・理由がはっきりしていてよいと思った。出だしがこんな感じなら軽やかでいいと思った。
続く第2小節の展開としては、第1小節と同じフレーズ(a)、第1小節を若干変化させたフレーズ(a´)、第1小節とは異なるフレーズ(b)の3つが考えられます。授業内でE君にインタビューしたところ、自分が作った部分動機に対してコントラストが明確なフレーズにしたいという要望があり、動機は「a+b」の形態に決まりました。曲のテンポはBPM=120で、スタイル(ジャンル)はフュージョンっぽくしてほしいとのこと。
こうしたE君の要望も踏まえて、E君が作った部分動機に続く新たな部分動機を93名が作ってモティーフを完成させました。その中から10票を得て選ばれたのが、上に掲載のT君が作成したモティーフです。T君のモティーフ作成の意図は次のようなものでした。
(1)a(第1小節)での最小音価が16分なので、bでも16分を基調としてaの勢いをキープする。
(2)aでは16分音符の後に休符を使うなど、音に関して余韻を残さない印象を持ったので、
bでも休符を随所に入れて様式の統一を図る。
(3)bは主旋律以外にも、副旋律やベースラインに使うことができるリズムとすることで、
編曲の幅が広がるようにした。
以下、T君のモティーフを選んだ方々からのコメントです。
・強拍の部分に休符を入れていて、リズム感がいいと思いました。
・軽快で良いと思いました。
・休符を入れるタイミングなどもよく考えられていて編曲のことまで考えて作られていて良いと思いました。
・私は1小節目の終わりが休符だったため、2小節目は休符から入らないようにしたが、
この人は休符から入っていて勇気があるなと思ったから。また、そこまで不自然には聞こえなかった。
・前の部分動機aを生かすように考えての動機作成になっていて、纏まりよくできてたから。
・このメロディ聞いてみたいと思った。
・aの部分動機と同様にbの部分動機の1拍目を8分休符で統一していた。
また、休符が多く使われているが、小節の後半では16分音符が連続していて緩急が感じられた。
・リズミカルな動きでとてもよかったと思った。
・前半の飛び跳ねているような雰囲気は残しつつ、上手く異なるふうになっていると思ったため。
・編曲の幅を広げることを意識している点が良いと思いました。また、リズムが素敵だと思いました。
このように、作曲の出発点となるフレーズやアイデアはどれも学生が作り、学生たちが選んだものです。前掲のモティーフが作成されるまでは、私は一切関与していません。
さあ、このあとどのようなメロディが紡がれ、曲になっていくのでしょうか? このブログ記事を書いている現時点ではまだ作曲に取りかかっていませんが、冬休み中に徐々に形にしていきたいと思います。なおT君からは、自身が作った動機をAとした場合、続く第3〜4小節のモティーフの形態はA´にしてほしいという要望を受けています。つまり、小楽節(4小節)の形態は「A+A´」となるわけですね。
完成した曲は最終回の授業でお披露目(演奏)します。これについては、またブログでご報告しましょう。お楽しみに。
(文責:伊藤謙一郎)
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