【漫画の話題】領域展開に関するメディア技術コース的考察
2021年1月29日 (金) 投稿者: メディア技術コース
みなさんこんにちは。今回は、最近注目されている漫画作品である「呪術廻戦」に乗っかってその世界観についてメディア技術コース的に考察したいと思います。(あくまで私見による解釈であり、実際の作品の設定とは異なることはご承知おきください。)メディア学部らしい記事ですよね。
(1)設定について
作品をご存じない方のために、今回考察する設定についてお話します。物語の重要な登場人物である高専教員・五条悟先生は「無下限呪術」なる技を持っており、とくにそれが発揮される有利な状況である「領域展開”無量空処”」をすると、その領域に入った人は無下限呪術の技を受けてしまいます。以下、設定の一部ですが、それぞれの概略を示します。
- 無下限呪術 相手の物理的攻撃(殴打など)が「永遠に」直前に留まって当たることがありません。
- 領域展開”無量空処” 入った人に無下限呪術が適応される特別な領域を作ること。その領域に入った人は、感覚情報が「永遠に完結せず、故に何もできない」といいます。
他にもいろいろ設定はあるのですが、以上2点に絞って考察します。
(2)仮説:無下限呪術はアナログな時間の進行を操る技である
作品内の説明によると、「無下限呪術」により打撃が永遠に当たらない秘密は、古代ギリシャの時代から考えられているパラドックスの一つ「アキレスと亀」にあるといいます。俊足のアキレスが遅い亀を追い抜かそうとした場合、ある時刻にアキレスがa [m]の地点にいて、亀が b の地点(b > a)にいたとすると、t 秒後 ( 以下、秒の単位は s と記載し、t [s] などと書く)にアキレスが b に到達したときには亀はc (c > b)にすでに進んでいます。アキレスがcに到達したころには、亀は(d > c)に到達しています。こうして、いくらアキレスが亀がいた場所に進んでも亀はその間に先に進んでいるため永遠に追い抜かすことはできないという話です。
このパラドックスは、結局のところ、実際にアキレスが亀を追い抜く時刻 T (仮に両者が等速運動をしているとしてアキレスが秒速v [m/s]、亀が秒速u [m/s]とすると T = (b - a) / (v - u) なのですが)があったとしても、そこまで先については、言及していないということになります。つまり、時刻 T より前の時刻で起こっている亀とアキレスの競争を「無限に細かく時間を刻んで述べている」だけに過ぎないのです。
呪術廻戦においてこのパラドックスが技に応用されているとすると、無下限呪術の実行者(五条先生)に打撃を与えようとする拳は、その直前に五条先生の体の前で無限に細かく刻まれる(いつまでも時刻tが t < T のままで)ことにより本来打撃が当たるはずの時刻 T に永遠に到達しないことになるのではないでしょうか。
(3)では領域展開”無量空処”は?
こちらは、「領域」に入った人がその無限に細かく刻まれる時間の流れに、体が部分的に巻き込まれると解釈できるのではないでしょうか。人間のニューロンはある値を超える電圧の信号のパルス(スパイク状の信号)が連続して一定時間以上入力されると「発火」という活動状態が生じ、次のニューロンへと情報が出力されます。これは、人工知能のアルゴリズムの一つで現代に広く用いられているニューラルネットワークでもこのモデルが使われています。ニューロンは複数が並列に並んでいて同時に発火したりといった並列の処理ができるのですが、一個一個のニューロンが発火できる頻度、つまり脳が局所的に情報を処理できる速度には上限があります。
「無量空処」によって例えば脳が処理をする時間間隔が無限に近く細かく刻まれていったらどうなるでしょう。視覚や聴覚から入ってきた情報は、各種のニューロンを発火させて次の階層のニューロンへと伝えられますが、それが仮に1秒間に本来10回~数十回程度だったものが、1秒間に数万回になったとしたら、情報を与えられる人間にとっては1000倍の時間でゆっくり情報が与えられたかのようになるのです。
そもとも視聴覚などに入力される光や音の自然界の情報は、アナログ情報のため、時間軸上は無限に細かく取得することができます。しかし人間側は、ひとつひとつのニューロンは局所的にある意味デジタル的な逐次処理をしていてその1ステップ1ステップが1秒間に膨大な回数行われるようになると、メディア学的には「フレームレート(動画像の場合は1秒間の処理画像枚数)は上がるが、1秒間の処理は延々に完結しない・・ゆえに何もできない」という状況になるのです。
(画像:呪術廻戦にハマって領域展開のポーズをする菊池先生の3Dモデル)
メディア技術コース 越智
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