みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品」を紹介します。
今回紹介するのはこの映画です。
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『カーズ(2006)』
【監督】
ジョン・ラセター
ジョー・ランフト
【脚本】
ジョン・ラセター
ジョー・ランフト
ジョルゲン・クルビエン
ダン・フォーゲルマン
【参考URL】
https://movies.yahoo.co.jp/movie/324138/
【あらすじ】
車たちが人のように言葉を話し、人のように暮らす世界。若き天才レーサーのマックイーンは、自身の才能に驕り高ぶるあまり、自身のレーシングチームのスタッフを軽んじてトラブルを引き起こし、優勝決定戦のレースを前に、田舎町の「ラジエーター・スプリングス」で置き去りとなってしまった。
一刻も早く決勝会場へ向かいたいマックイーンは町の住人に協力を求めるが、田舎町では彼の名声も役に立たず、身勝手な態度から問題を引き起こしたため、街のリーダーであるドックから道路の舗装を命じられてしまう。焦るマックイーンはドックに街からの脱出を賭けたレースをもちかけるも敗北。一気に自信を失い、舗装作業に従事するようになったマックイーンだったが、そんな彼を励ますレッカー車のメーターたちによって、仲間がいることの喜びと感謝を実感するようになっていく。
そんなある日、ドックの正体が伝説のレーサー「ハドソン・ホーネット」だと偶然知ったマックイーンは、ドックが大事故によって見捨てられたことにショックを受け引退した話を本人から聞かされる。そこでマックイーンは、仲間たちをより大事にしようと決めて街に残ろうとしたが、ドックは密かに連絡をまわしており、マックイーンは半ば強引に決勝レースへ送り出されることになった。
別れの挨拶もろくにできなかったことで集中力を欠いていたマックイーンは、優勝を諦めかけるが、後から応援に駆けつけた「ラジエーター・スプリングス」の仲間たちの姿を見て奮起し、最終ラップでついにトップとなる。
そのまま優勝かと思われたが、最下位になりたくないチック・ヒックスが、2位で今期限りの引退を宣言していたレーサーキングことストリップ・ウェザーズを強引に突き飛ばしてクラッシュさせた。マックイーンは急遽たちもどり、レーサーキングを支えてゴールした。ドックの時のような出来事を繰り返したくなかったのである。
優勝を逃したマックイーンだったが、彼の行動は大喝采を浴び、レース後に好待遇の契約話をも引き込んだが、マックイーンは「ラジエーター・スプリングス」へ戻ることを選び、仲間たちと共に、街に新たな活気をもたらす道を選んだのだった
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『カーズ』は、「トイ・ストーリー」シリーズなどを制作したことでも知られる、ピクサー・アニメーション・スタジオのフルCGアニメーション映画です。作中の舞台は地名などからアメリカだと推察できますが、人間のキャラクターは一切登場せず、もっと言うなら動物や虫も登場せず、牛のような車や昆虫のような車に置き換わっている世界観です。その代わり、登場キャラクターたちの日常生活における動作はとても人間臭く、独自性のある作品に仕上がっています。
この作品でシナリオライターとして注目すべきポイントは「成長」についてです。
物語の発端部分では、自分の才能を過信して仲間たちを全く大事にしない、自分勝手な主人公が、自業自得ながら陥った窮地において周囲から向けられた優しさによって考えを改め、、結末では自身もまた他者へ優しさと思いやりの心を持てるようになる、その明確な「成長」を見て取れるシナリオが「カーズ」のシナリオです。
よく「シナリオ」は「小説」と混同されがちなのですが。決定的な違いのひとつが、「原則としてシナリオには地の文が存在しない」という点です。小説であれば、地の文には登場人物の心情を説明する記述があったり、その説明のために文学的な表現や抽象的な表現などを用いたりすることも許されるのですが、シナリオにそれらは基本的に記述してはいけません。なぜなら、それらは映像化することができないからです。どうしても心情や精神状態を強調したいのであればセリフにして、登場人物に話させるしかありませんが、多用すると文字通り説明くさくなって、本心からそう言っていないかのように受け取られる可能性が高くなります。
ゆえに登場人物の内面的な成長をシナリオに書くことはとても難しいのですが、「カーズ」は主人公の才能に起因する「驕り高ぶり」という、目に見えない精神状態を「田舎町に置き去りにされる」という「報い」によって可視化し、街から去るときには「驕り高ぶり」を捨てることができる「成長」として明確にしています。
メディア学部でシナリオ執筆の課題に取り組む学生さんたちの中には、物語の結末部分で「~することで成長を遂げた」「~と考えられるようになった」といった表現で締めくくる人も多いのですが、具体的にとった行動が記述されていないことが多々あります。
その点で「カーズ」の主人公マックイーンは、序盤で他者を大事にしない言動を、最終的に他者に寄り添い、仲間たちと共に街の発展に尽くす、という行動に変えることでも「成長」を表現しきっています。
まったく人間が登場しない作品で、人間的成長を見事に描いているという点も、ある意味興味深いので、是非一度見てみて欲しい作品です。
(文責:兼松祥央)