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シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その17

2021年3月 1日 (月) 投稿者: メディアコンテンツコース

みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。

今回も「プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品」を紹介します。
今回紹介するのはこの映画です。

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『マトリックス(1999)』

【監督】
ラリー・ウォシャウスキー
アンディ・ウォシャウスキー

【脚本】
ラリー・ウォシャウスキー
アンディ・ウォシャウスキー

【参考URL】
https://movies.yahoo.co.jp/movie/85186/

【あらすじ】
いちプログラマーとして会社に勤務する傍ら、天才ハッカーとして活動するネオは、日々の生活が夢心地になる違和感を覚える日々に悩んでいた。そんなある日、謎の女性トリニティから、彼女の所属する組織のリーダーであるモーフィアスを紹介され、「この世界は仮想現実である」告げられたことで、違和感の正体に納得し、彼らと共に現実世界に目覚める決断をする。

ネオが覚醒した現実世界は、コンピューターに支配された人間たちがコンピューターの動力源として培養されている荒廃した世界だった。そしてモーフィアスとトリニティたちの正体は、そのコンピューター支配の打倒を目指す戦士だった。彼らがネオに接触したのは、ネオこそがコンピューターの支配から人類を救う「救世主」だから、だという。ネオはそんな彼らの期待に応え、特訓を経てみるみる強くなり、モーフィアスに匹敵する戦闘力を身に着けていったが、それでも「救世主」と呼べるほどの力がないことは、ネオ自身が一番理解していた。

それでもネオを救世主だと信じるモーフィアスによって、ネオは「預言者」のオラクルに引き合わされることになった。恐る恐るネオはオラクルから話を聞くと「あなたは救世主ではない」と告げられてしまう。ネオはその事実を仲間たちに伝えようとしたが、本拠地でモーフィアスと彼の信じる救世主ネオにはこれ以上従えないというメンバーによる裏切りが発生。モーフィアスは拘束され、支配者コンピューターのエージェントに投降してしまった。

ネオはトリニティと共にモーフィアスの救出へ向かい、モーフィアスの囚われたビルを強襲、激戦を征してネオはモーフィアスを助けだすが、脱出の間際にエージェントからの猛攻を受けたネオは倒れ、息絶えたことで自身が救世主でないことを示してしまった。しかし、トリニティはネオの遺体に「自分(トリニティ)が愛する者こそが救世主である」という予言を受けていたことを告白。するとその直後にネオは復活を遂げ、救世主と呼ぶにふさわしい、圧倒的な力に覚醒して敵エージェントを打ち破る。

戦いに勝利したネオは、その力で人間と支配コンピューターの戦争に終止符を打つことを誓うと、すぐさま次なる戦いへと向かっていくのだった

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マトリックスは1999年に制作されたアクション映画で、当時の最新技術を用いたVFXが作り出す斬新な映像が話題になり大ヒットしました。特に、主人公ネオを演じるキアヌ・リーブスの周囲360度に多数のカメラを配置し、身体を仰け反らせながら敵の銃撃を避ける様をぐるりと撮影してみせたシーンは「マトリックス避け」などと呼ばれ広く知られるようになり、その後、様々な作品に影響を与えています。

さて、それらのシーンは大変特徴的で印象深いですが、シナリオライターとしてこの作品の注目すべき点はそこではありません。有名なシーンはどれもあくまで映像上の演出を含めての評価です。映像化される前の、文字媒体だけの存在である「シナリオ」だけで評価すべき点がこの作品にはあります。

それは「作品の中核となる設定に説得力のあるエピソードをつけている」ということです。

あらすじに記述しましたが、この作品では最初から最後まで「救世主」という設定が出てきます。しかし、ある日突然「君は救世主だ」と告げられた主人公の心境は、「何故、救世主と言い切れるのか」という点で、視聴者と共有されます。その後、前述したVFXを用いた演出によって、その「救世主」と思しき現実離れした力が表現されていきますが、それでもそれは主人公が「救世主」である理由の答えにはなりません。

そのモヤモヤ感を解決するのが、ヒロインであるトリニティによる「愛の告白」でした。ネオは最初から救世主だったわけではなく、トリニティに愛される存在となったときに救世主になる、という理屈を判明させるストーリーになっている点が、この作品のシナリオの優れた点です。

東京工科大学メディア学部でシナリオを学び、執筆する学生さんたちの中には、「救世主」ではないものの、「伝説の勇者が・・・」とか「最強の暗殺者が・・・」とか、仰々しい設定をもったキャラクターをシナリオに登場させてくることがあります。

しかし「いったいどんなエピソードが伝説になっていて、どんなことができるから勇者と呼ばれているのか?」「どんな敵と戦い、どんな勝ち方をすることによって最強で、暗殺者がそこまで大きな力を持つことができる理由と、それだけの力があるのに暗殺者をしているのは何故か?」といった質問に答えられない場合が多々あります。

揚げ足を取るような質問に思われるかもしれませんが、シナリオライターであれば、その質問には、どんな形であれ、答えられるようにしておかねば、後々シナリオを読むことになるスタッフはもちろん、最終的な作品を鑑賞することになる視聴者にも納得してもらうことができない、不完全な作品になってしまいます。

マトリックスにおける「救世主」という設定の実現が、完璧な形で説明できている、とまでは言いませんが、ストーリーの序盤では満たしていなかった条件を、最後に全部満たしたことによって、実現されるようになっている、という論理性は説得力のあるものです。

「伝説の勇者」や「最強の暗殺者」の登場するシナリオを書きたい方は、是非一度マトリックスを見て「設定をこういう形で実現するのか」という感覚を味わっていただきたいです。

 

(文責:兼松祥央)

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