シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その18
2021年3月 4日 (木) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品」を紹介します。
今回紹介するのはこの映画です。
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『ファインディング・ニモ(2003)』
【監督】
アンドリュー・スタントン
リー・アンクリッチ
【脚本】
アンドリュー・スタントン
ボブ・ピーターソン
デヴィッド・レイノルズ
【参考URL】
https://movies.yahoo.co.jp/movie/241078/
【あらすじ】
カクレクマノミのマーリンは、妻のコーラルとの間で子宝(たくさんの卵)にも恵まれ幸せな日々を過ごしていた。しかし、凶暴な魚に新居を襲われ、妻コーラルと卵の殆どを飲み込まれてしまい、残ったのはたった一つの卵だけだった。その卵から生まれた子供はニモと名付けられ、マーリンによって大事に育てられた。
マーリンは自身の経験から、海の怖さをニモに強く言い聞かせてきたが、それに反発したニモはある日、うかつにもダイバーのボートに近づいてそのまま連れさられてしまい、そのままどこかの歯医者の水槽で飼われる身となった。
マーリンは必死にボートを追ったが追いつけるわけもなく、絶望しかけるが、そのボートの行方を知るというナンヨウハギのドリーと出会い、共にニモの後を追うことになった。ドリーは呑気な上に物忘れが酷く、マーリンは苦労するが、ダイバーの残したゴーグルに書かれていた住所をドリーが思い出したことをきっかけに、ウミガメ達の協力を得て海流に乗ってシドニーへ向かうことになる。やがてマーリンたちの旅路はウミガメ達によって冒険譚として海中の話題となり、それをたまたま聞きつけたペリカンのナイジェルによって、歯医者の水槽にいるニモのもとに伝えられた。これに勇気づけられたニモは水槽から脱出する機会をうかがった。
様々なトラブルを乗り越えてシドニーまで辿り着いたマーリンとドリーは、ナイジェルにくわえられてニモのいるクリニックに辿り着くも、タイミング悪く、脱出のために死んだふりをしていたニモに出くわしてしまった。マーリンは絶望と失意のショックでその場を去って海へ戻ると、ドリーにも別れを告げて去っていってしまう。
そこでニモは、同じ水槽で仲良くなった仲間の力を借りて下水へ脱出。海へ出て必死にマーリンの後を追うと、ドリーと出会うことに成功。漁師の網によってまた捕らえられそうになる危機もあったが、マーリンとニモはついに再会を果たし、自分たちの家へと帰っていった。
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ファインディング・ニモは、2003年にディズニーとピクサーで共同制作されたフル3D作品で、ピクサーの長編アニメーションとしては5作目となります。同年の第76回アカデミー賞では長編アニメ賞を受賞しています。すでに過去のブログで「トイ・ストーリー」や「カーズ」を取り上げているので、このブログを読み続けている方には「ピクサーの作品を取り上げる率が高いのでは?」と思われるかもしれませんが、それだけシナリオライターとしては見ておいたほうがいい作品が多いということでもあります。
ではこの作品でシナリオライターとしてどこに注目すべきか、というと「親子愛という、普遍的だが難しいテーマを扱ったシナリオになっている」という点です。
同じピクサーの作品であるトイ・ストーリーを、このブログで取り上げた際には、注目すべきポイントを「大人も子供も楽しめるシナリオになっている」と指摘しましたが、ファインディング・ニモは、それと似ているようで違います。
マーリンに共感するか、ニモに共感するかによって大人でも子供でも楽しめる、という点は共通していますが、この作品は「親であるマーリン」が「子であるニモ」を助け出すストーリーになっているので、両者は大人と子供というだけでなく、親と子の関係でもあります。トイ・ストーリーにおけるウッディとバズの関係とは全く違うのです。
親と子をテーマにした作品の強みは、共感を得やすいことです。そして単純な話、親子で楽しめる作品になっていれば、映画を見てくれる人も多くなります。ビジネス的に、これほどわかりやすく、都合のいい話はありません。
しかし、それゆえに難しい点もあります。「ありきたりな親と子」の関係では、映画を見てもらえるほど興味関心を惹かないのです。共感しやすいテーマであるがゆえに、目を引く特徴や独自性をもった内容でなければ、わざわざ時間とお金を費やしてまで注目しようと思われません。
その点をファインディング・ニモは「海で捕らえられた魚(カクレクマノミ)が再び海へ生還する」という脱出劇の側面をシナリオに組み込むことで、最後までどうなるか分からないハラハラ感を出して、楽しませる作りになっています。
特に、作品の舞台は人間の言葉を話す生き物がいる以外は、ふつうの現代社会なので、そこで一度捕らえられた魚が再び海へ帰ることなど、ほぼ不可能に思わせるあたりも巧みで、さらにその不可能を可能にしてみせる原動力が「親子愛」として描かれている点で、かなり練り込まれたシナリオだと言えます。
シナリオライターは、クライアントから割と気軽に「幅広く親子にウケるシナリオ書いてよ」と言われたりして、頭を悩ませたりするのですが、そんなに簡単に扱えるテーマではないことを認識する上でも、実際にそういうオーダーがあったときのためにも、「ファインディング・ニモ」は見ておいたほうが良い作品でしょう。
(文責:兼松祥央)
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