シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その19
2021年3月28日 (日) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品」を紹介します。
今回紹介するのはこの映画です。
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『カサブランカ(1942)』
【監督】
マイケル・カーティス
【脚本】
ハワード・コッチ
ジュリアス・J・エプスタイン
フィリップ・G・エプスタイン
【参考URL】
https://movies.yahoo.co.jp/movie/4450/
【あらすじ】
ときは第二次世界大戦の最中。フランス領モロッコのカサブランカは、ナチスドイツ侵攻の影響からアメリカへ亡命しようとする人々で溢れていた。
そんなカサブランカで連日賑わうバーを経営するアメリカ人のリックは、ある日のこと、ウーガーテという男から、とある書類を少しの間預かるよう頼まれた。ウーガーテは出国ビザ高値で売りつける商売をしている男で、まもなくその取引をリックの店で行う予定になっていた。取引の相手はナチスの収容所から脱走してきたチェコ人の大物活動家ラズロー。しかし、その両者の取引は警察署長ルノーによって察知されており、一悶着の末に店内でウーガーテが警察に取り押さえられたことで実現しなかった。
そんな事情を知らず店にやってきたラズローが様子のおかしい事に気づく一方、ラズローに連れられた妻イルザは、バーのピアニストのサムに見覚えがあり、声をかけた。そして思い出の曲「時の過ぎゆくまま」をリクエストする。これを聞きつけ、演奏をやめさせにきたリックは、イルザと顔を合わせることになり、ふたりは驚愕する。リックとイルザはかつてパリで離れ離れになった恋人同士だったのである。
その後、亡命のための書類がウーガーテからリックに渡っていたことを突き止め、合わせてリックの素性を調べたラズローは、リックのもとを訪ね協力をもとめた。リックもまたかつては活動家として弱者のために戦ってきた闘士だったと知っての頼みだった。しかし、リックはこれを拒否し、理由はラズローの妻イルザに聞くよう、はぐらかした。
亡命の書類がリックから得られなかったこと、意味深なはぐらかされ方をしたことをラズローから聞かされたイルザは、意を決し、独りでリックの店を訪れると、銃を突きつけてリックに書類を渡すよう迫った。しかし、全く抵抗しようとしないリックに対し感極まったイルザは銃を下ろし、パリでの別れの真相を語る。
もともとラズローの妻だったイルザは、ラズローがナチスの収容所に囚われ、脱走の失敗で死亡したと聞かされ、絶望していたときに出会い、惹かれたのがリックだった。しかし、ラズローの生存を知らされたイルザは、リックにもナチスの手が及ぶことを懸念して姿を消したのだった。
話を終えたイルザが、せめてラズローだけでも亡命させてほしい、と頼みこむと、リックはラズローの分の亡命書類だけを渡し、イルザのことは渡さない、と伝えて彼女を帰らせた。すると今度は、ラズローがリックのもとにやってきて、同じ女性を愛したよしみで、リックがイルザと亡命し、彼女を守って欲しい、と頼んできた。
亡命の飛行機の出発の日、飛行場に姿をみせたラズローとイルザに対して、リックはふたりとも飛行機に乗るよう指示した。困惑するイルザとラズローだったが、リックはイルザもラズローもお互いが必要な存在であり、ここで別れては後悔するだろう、と伝え、説得すると、そのままふたりを送り出し、見送ったのだった。
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「カサブランカ」は1942年に制作された、かなり古い映画です。見たことがない人も多いかもしれませんが、タイトルや内容はまったく知らなくても、作中に出てくるセリフ『君の瞳に乾杯!(Here's looking at you, kid.)』だけは聞いたことがあるのではないでしょうか。
このセリフはあまりにも有名になりすぎて権利関係が複雑化し、原作での発言『Here's looking at you, kid.』こそ変わっていません(変えられません)が、各種メディアの字幕や吹き替えでは「君の瞳に乾杯!」という言葉を見聞きできなくなっていたりします。
さて、この作品でシナリオライターとしてどこに注目すべきかといえばやはりセリフまわりであり「強い印象が残るセリフにつながる巧みなシナリオ」だということです。
映画カサブランカを知らなくても『君の瞳に乾杯!』は知っている人は多いだろう、と前述しましたが、今やこのセリフは様々な作品で使われることがあり、しかもその使われ方のほとんどは「キザなセリフ」としてであり、場合によっては、本気なのかそうでないのか分からない男性が、冗談めかして女性を口説くような使われ方をします。むしろ、そういうときのためのセリフだと思っている人も多いです。
しかし、元ネタであるこの「カサブランカ」におけるこのセリフは、決して冗談めかした使われ方はしておらず、むしろ作中の要所要所で象徴的に使われており、しかも、同じセリフながら主人公リックの置かれた状況ごとに違った心情を汲み取ることができるようになっています。
ふたりの恋人たちの未来に期待して『君の瞳に乾杯!』
ようやく取り戻した愛する女性に対し『君の瞳に乾杯!』
これからの将来に幸多からんことを願って『君の瞳に乾杯!』
作中だとこんなところでしょうか。それぞれのセリフを口にするまでのシーンのお膳立てが、かなりしっかりシナリオになっているので、ステレオタイプ的「キザなセリフ」のイメージは感じません。
東京工科大学メディア学部でシナリオを学び、実際に執筆する学生のなかで、よくある失敗の一つが「言わせたいセリフを唐突に盛り込んでしまう」ということです。アイディアとしてはオリジナリティのあるセリフだったとしても、いきなりなんの脈絡もなくそういったセリフを登場人物に言わせてしまうと、違和感を与えたり、「クサいセリフだ」と思われたりして、効果的に機能しません。
名作と呼ばれる映画のシナリオには、名ゼリフがつきものですが、セリフ単体を考案して執筆しても、決して名ゼリフとしては認識されないものです。タイトルよりもセリフが有名になってしまった「カサブランカ」を一度見て、どうしてそこまで有名なセリフになったのかを、考えてみるのはいかがでしょうか。
(文責:兼松祥央)
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