みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品」を紹介します。
今回紹介するのはこの映画です。
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『スタンド・バイ・ミー(1986)』
【監督】
ロブ・ライナー
【脚本】
ブルース・A・エヴァンス
レイノルド・ギデオン
【参考URL】
https://movies.yahoo.co.jp/movie/11893/
【あらすじ】
アメリカのオレゴン州にある、人口1000人ほどの田舎町、キャッスルロックに済む少年ゴーディには、中の良い友だちが3人いた。リーダー的存在のクリス、父親が誇りのテディ、弱気だが負けず嫌いのバーン。彼ら4人は木の上にこしらえた秘密基地に集まって遊ぶことが日課だった。
ある日のこと、バーンが一つの提案を持ちかけた。それは「人間の死体を見てみないか」というもの。数日前から行方不明になっていた少年の死体をたまたま見つけたバーンの兄は、見て見ぬ振りをして帰ってきた。それをたまたま知ったバーンは、4人で発見して第1発見者となれば、一躍有名になれるのではないか、と考えたのである。
4人は、それぞれの家族に「友だちの家の庭でキャンプする」と嘘の計画を伝えると、街から30kmほど離れたチェンバレーへ向かうことに。バーンによると行方不明の少年は、どうやら列車に跳ねられたらしく、4人は線路沿いに歩いていくことになった。
意気揚々と出発したものの、所詮は子供の無計画な思いつきで、寝袋は持参しても食料の準備はしておらず、なけなしのお金を四人でかき集めて買い出しに行くはめになったり、列車が通る時間を全く把握しておらず轢き殺されそうになったり、常にトラブル続きの道中だった。
もうすぐチェンバレーかという夜のこと、獣の遠吠えに危険を感じた4人は火を起こし、交代で見張りをすることにした。とっくに食料は尽きていて、手持ち無沙汰になった4人は、ゴーディに「なにか面白い話をしてくれ」と頼むと、その話題でひとしきり盛り上がった。
その後、クリスが寝静まった仲間たちを見守っていると、ゴーディは交代のために起きてきた。するとクリスはコーディが語った自作の物語が盛り上がったことを引き合いに出し「小説家になれよ」と勧めてきた。
しかし、ゴーディはどうしても自分に自信がなかった。ゴーディにはとても優秀な兄がいたが、突然の事故で亡くなっており、両親はそのショックから立ち直れず、事あるごとにゴーディよりも優秀だったと嘆かれていたからである。
その後、夜が明けると4人はさらに歩き続け、ついに線路近くの茂みに放置された死体を発見する。しかし、4人とは別にバーンの兄から死体の話を聞きつけていた不良グループがその直後に現れ、リーダーのエースが死体を渡せとナイフで脅してきた。自分たちが第一発見者となって手柄を横取りしようとしたのである。
しかし、これに対してゴーディはクリスが密かに持ってきていた銃を突きつけ返して拒否。すると、銃を渡せとたかを括ってきたため、ゴーディはエースに威嚇射撃した。これにひるんだ不良たちは諦めて逃げていった。
ようやく目的の死体との対面を果たした4人だが、出発したときに想像していたような喜びはなく、匿名での報告を決めた。
特にゴーディは死んだ兄を思い出し、どうして兄ではなく自分が生きているのだろうか、と複雑な思いがこみあげていた。すると、そんなゴーディにクリスは「将来小説家になって、この数日間の冒険を書いてほしい」と伝え、改めてゴーディが文才を活かすよう促した。
その後、4人は次第に会うこともなくなり、それぞれ別々の道を進むことになったが、ゴーディはこのときの冒険がきっかけとなり、小説家として成功をおさめることになった。
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「スタンド・バイ・ミー」は、スティーブン・キングの小説が原作の映画で、原作のタイトルは、作中で冒険に出かけるきっかけとなった死体を指す『THE BODY』です。「ホラーの帝王」の異名を持つスティーブン・キング原作の小説はホラー映画として何本も映画化されていますが「スタンド・バイ・ミー」はそれらのなかでは珍しく、ホラーではない小説の映画だったりします。
この作品は今なお日本でも人気が高く、放映希望アンケートで上位にランクインしたり、映画のタイトルにもなっている楽曲「スタンド・バイ・ミー」はもちろん、映画の道中に流れる楽曲の数々を、思い出の曲として上げるファンも多いです。
では、この作品でシナリオライターとしてどこに注目すべきか、といえば「原作小説を活かしつつ映画のためにシナリオが書かれている」という点です。
スティーブン・キングの小説が数多く映画化されていることからも分かるように、日本も海外も小説を原作に映画が作られることはよくあります。
商業的な観点から考えれば「人気になった小説をもとに映画を作れば、原作小説のファンが見に来てくれるだろう」という計算ができて、ある程度確実な収益を見込むことができるわけですが、原作と映画の内容があまりにも違いすぎてファンを落胆させる場合も少なくありません。最近では一概に映画化を喜べない人もいるようです。
どうしてそんなことが起きるのか、というと、一番の理由は単純なことで「小説と映画は全く別物だから」です。
仮に単なる一人の原作小説ファンとして見るだけなら、映画の出来に納得がいかなくて憤慨するのも楽しみ方の一つですが、シナリオライター的な観点から見るならば、小説と映画というふたつのメディアの違いは別物の作品として内容を把握すべきです。
別物として把握すべきポイントはたくさんありますが、中でも重要なことの一つは、小説なら詳細に記述されている心理描写が、映画では映像や俳優の演技から読み取ることしかできないこと、が挙げられます。
小説であれば、作中で起きた何らかの出来事に対して、それぞれの登場人物が感じたり考えたりした内容を、地の文で記述し、説明することができますが、映画ではそれができません。それをどうしても実現しようとするなら、ナレーションやセリフで語らせるしかないのですが、すべてのシーンでそれをやってしまうと、映画としての進行テンポが悪くなってしまいます。
当然シナリオライターは、小説と映画が別物になることを承知の上でシナリオを書くことになります。大ヒット小説が原作だったら、シナリオライターはラクにシナリオを書けるだろう、と思われることも多々ありますが、むしろ逆です。大ヒット小説の内容を映像にして映画にすることは難しいので、とても苦労することになります。
その点で「スタンド・バイ・ミー」は、物語の中心となる4人の少年たちの抱える問題を適度に映像化しつつ、くどくなりすぎない程度に心情をセリフにしています。そして、主人公のゴーディに関して言えば、ナレーション役を「大人になって当時を振り返るゴーディ」にすることで、特に念入りに心情描写させています。
本作の舞台はアメリカの田舎町。登場人物も幼く未熟な少年たちで、起きる出来事も、それに対するリアクションも、それほど派手なものになりえない内容です。正直いってどれもスケールの小さい事象ですが、本人たちにとっては大きな事件だったり、大冒険だったりするのだな、と思わせてくる映画になっているのは、登場人物たちの心理描写を巧みにシナリオに反映できているから、と言えるでしょう。
シナリオライターを目指す方には、ぜひ一度見ていただきたい作品です。
(文責:兼松祥央)