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「無理」と言われると実現したくなる

2021年6月21日 (月) 投稿者: メディア技術コース

 3年生向け講義「3次元コンピュータグラフィックス論」の先週の授業では「レイトレーシング」を取り上げました。今日の主題はその技術ではなく、履修生からの質問を受けて考えた大事なことです。誰にとって大事かというと、非定型的な仕事(何らかの「問題解決」)をするすべての人にとってです。
 
 まず、質問のあったスライドページを示します。
 
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 レイトレーシング法はCG画像を生成する一手法で、検索すれば多くの説明が出てきます。手法のポイントは、画像の一画素一画素について、視線に相当する直線(レイ)と物体モデルとの交点を見つけてその画素で見える物体表面色を計算(シェーディング)する、という点です。
 
 このスライド内容に対して次のような質問がありました。
 
 質問
 『
 逆に直線との交差計算ができない形状とは例えばどんなものがあるのでしょうか?
 』
 
 もっともな質問です。ついそうツッコミたくなるスライドですからね。これに対する私の回答は以下の通りです。
 
 回答
 『
 面積のない形状、つまり点や線です。交差計算自体は実行可能ですが、交点が求まらない場合がほとんどだからレイトレーシングは事実上できない、ということになります。
 
 例えば、ベジエ曲線をレイトレーシングで描画することはできません。点群データもできません。
 
 そもそも、点や線は、仮にレイとの交点があった場合でも、その交点をどういう明るさでシェーディングすればよいか、レイの反射方向はどうなるか、などに関する計算方法はありません。その意味でも点や線は無理、ということになります。
 』
 
 ここから先は私の研究者としての独り言です。
 
 「無理」と言われると研究者としては、完璧じゃなくてもそこそこ妥当な方法で何とか実現できないか、と考えたくなります。実現できれば新たな研究成果になるかもしれません。
 
 例えば、レイと点・線との交点は通常は求まりません。ただ少し現実的に考えると、近い所をレイが通るならその点・線が見える、とみなすこともできます。近い、というのは、距離を測り、事前に定めた距離と照らし合わせれば判定できます。これだと交差判定が実現できます。
 
 シェーディングに相当する計算も、距離が近いほど明るくするなど、妥当なやり方はあります。
 
 実際、点とレイとの距離を使って妥当な交差判定ができる、というのは「メタボール」のレイトレーシングの基本的な考え方になります。
 
 研究者に限らず、価値のある仕事をする場合に上記例のような発想は重要です。
 
 「不可能」と言われたら、「ゴール設定を多少変え、完璧じゃなくても有用な解決法があるはず」と考える癖をつけておくと、「問題解決力」の基礎体力になります。
 
 ちなみに、問題解決力のための別の基礎体力は「豊富かつ雑多な知識」です。大小さまざまの困難な問題を解決するのに必要なのは創造性です。創造性は、知識概念の量と組み合わせる力との掛け算です(ジェームス・W・ヤング「アイデアのつくり方」)。
 
 さらに蛇足ですが、私自身もいま大学教員として困難な新しい問題に直面していますが、ゴール設定を多少変えてでもなるべく最適な解決策を仲間と一緒に模索するのを楽しんでいるところです。

メディア学部 柿本 正憲

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