シナリオアナリシスでよくある質問(おすすめの映画)その24
2021年7月10日 (土) 投稿者: メディアコンテンツコース
みなさん,こんにちは。メディア学部実験助手の菅野です。
今回も「プロのシナリオライターを目指すなら見ておいたほうが良い作品」を紹介します。
今回紹介するのはこの映画です。
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『コラテラル(2004)』
【監督】
マイケル・マン
【脚本】
スチュアート・ビーティー
【参考URL】
https://movies.yahoo.co.jp/movie/320267/
【あらすじ】
タクシードライバーのマックスは、ある日、敏腕女性検事のアニーを客としてロサンゼルスのビルに送り届けることになった。マックスは、道すがらアニーの仕事の愚痴を聞き、励ましたことを喜ばれ、アニーから連絡先の書かれた名刺もらう。気を良くしたマックスのタクシーに、アニーと入れ替えで次の客がやってきた。
その客ヴィンセントは、時間にうるさいビジネスマン風の男だったが、マックスはやはりより良いルートで目的地に彼を送り届けた。すると、ヴィンセントは気を良くしたのか、そのまま今晩タクシーを貸し切って5箇所を回ってほしい、と提案してきた。貸し切りは禁止されていたが、600ドルの報酬は破格で、マックスはこれを引き受けた。
最初の目的地にヴィンセントを送り届けたマックスは裏手の路地で待つことになったが、しばらくすると、アパート上階の窓から死体がタクシー目掛けて落ちてきた。そしてすぐさまそれを追ってきたヴィンセントは、自分が殺し屋であることを告げ、協力せねばマックスも殺すことになる、と脅してきた。
やむを得ず運転を続けることになったマックスは、ふたり目、さんにん目のターゲットをヴィンセントが殺していく合間に逃亡や抵抗を試みたが、ことごとくヴィンセントに阻止されてしまい、うまくいかない。そんな矢先、タクシー会社から、マックスが見舞いにこないことを気にした母親が何度も電話をかけてくる、と連絡が入った。ヴィンセントは、日課を破ると怪しまれる、という理由からマックスとともに病院へ向かった。
病室でマックスの母親が、ヴィンセントとぎこちない会話を交わしたすきをついて、マックスは、ヴィンセントが持っていたブリーフケースを強奪して逃走する。すぐに追いつかれてしまうものの、自マックスはブリーフケースを高速道路に投げ捨て、粉砕した。
残る二人のターゲット情報を失ったヴィンセントは、依頼主から再度情報を得るため、自分に成り代わってデータを受け取ってくるよう命令してきた。従わなければ母親を殺し、失敗すればマックス自身を殺すと脅され、マックスはやむを得ずこれに従い、依頼人のフェリックスから決死の思いでデータを再入手した。
4人目のターゲットがいる韓国マフィアのナイトクラブへ向かったマックスとヴィンセントだったが、すでにふたりの乗ったタクシーは地元警察とFBIによってマークされており、ナイトクラブには包囲網がしかれつつあった。しかし、それでもヴィンセントは薄暗い室内とごった返す客たちに紛れてターゲットを撃ち殺すことに成功する。
残るターゲットはあとひとり。だが、マックスはもはや心身ともに限界だった。5人目のターゲットのもとへ向かう途中でマックスはヴィンセントと口論になり、タクシーを暴走させると、ヴィンセントに銃を突きつけられてもアクセルを踏み続け、車を横転させる事故を起こした。
ヴィンセントはその場から姿をくらまし、マックスは事故処理にきた警官に逮捕されようとしたが、ヴィンセントが残した5人目のターゲット情報が目に入ってしまう。それはヴィンセントを乗せる前に、自分の仕事ぶりを評価して、名刺をくれた女性検事のアニーだった。マックスは考えを一転。ヴィンセントの残した銃をその場から奪い、アニーのいるオフィスへ向かった。
マックスは充電の切れかけた携帯電話からアニーへ電話をかけ、危機を伝えるも、事情を理解してもらう前に電話は切れ、ヴィンセントの魔の手が迫る。それでも諦めないマックスはなんとかアニーと合流し、地下鉄から脱出を試みた。しかし、ヴィンセントはおそろしい嗅覚で地下鉄車内にまで追跡してきたため、マックスは覚悟を決めて対峙、機先を制してヴィンセントに致命傷を与え、アニーとともに窮地を脱したのだった。
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「コラテラル」は2004年に公開されたアメリカの映画で、”息もつかせぬ展開にダイナミックなアクション”(フィルムコメント誌)、”A knockout!(強烈な素晴らしさ!)”(ニューズウィーク誌)と評される、スリリングなサスペンス作品です。トム・クルーズが、悪役を演じていることでも話題になった作品です。
では、この作品でシナリオライターとしてどこに注目すべきか、といえば「巻き込まれ型の主人公を活かしている」という点です。
トム・クルーズが悪役で出演していることを前述しましたが、各種メディアでも正面パッケージに採用されている率が高いのもトム・クルーズが演じる殺し屋のヴィンセントなのですが、あらすじを読んでいただけばわかるように、この映画シナリオにおける主人公は、タクシードライバーのマックスです。
ハリウッドにおけるシナリオ理論の一つに”その作品全体を通して解決する中心的な問題「セントラルクエスチョン」を設定する”というものがあります。多くの場合、その問題は主人公の目指す達成目標であり、推理モノなら「犯人を捕まえる」、恋愛モノなら「意中の相手と結ばれる」、バトルモノだったら「戦いに勝利する」など、が該当します。
コラテラルにおける、主人公の目的は「生き残ること」であり、その目的の障害となる存在、すなわち敵は、殺し屋のヴィンセントです。ヴィンセントに殺されずに生き残ることができるか、を視聴者は見定めるべく、映画のラストを見ることになる、といっても過言ではありません。
「巻き込まれ型の主人公」というのは一見、とても簡単に作れそうに見えるアイディアです。今回の作品「コラテラル」において、主人公は単なる一般市民であり、殺人などの犯罪からは基本的に無縁の存在です。そんな立場の人間が、非日常な出来事にさらされるという機会をつくる上で「巻き込まれた」という事故的な関連付けは、有無を言わせぬきっかけとして、分かりやすいものがあります。
しかし「巻き込まれた」というシチュエーションは、あくまで受動的なものなので、どうしても本人が行動する上でのモチベーションに繋げづらいところがあります。現実の生活で、文字通り「事故に巻き込まれた」として、自身がその巻き込まれた事件を自ら解決に乗り出そうとする人は殆どいません。
視聴者も、基本的にはそういった感覚を持って映画を見ていますし、作中に自分を投影もしくは共感する対象として主人公を認識します。それゆえに「巻き込まれただけだが、どうしても事件に付き合わねばならない」と思わせるには、かなり強い理由と動機が求められます。
作中のストーリーは5人のターゲットを殺害する殺し屋に付き合う形で進むわけですが、視聴者というものはあたりまえに贅沢なもので、一人目よりも二人目、二人目よりも三人目、という具合に、後半になるほど過酷なシチュエーションを乗り切ることを求めてきます。「巻き込まれている」というシチュエーションについても同様に期待のハードルは上がっていきます。
その点で「コラテラル」の主人公マックスは、最初から最後まで殺し屋ヴィンセントのターゲット殺害に巻き込まれ、対応を求められ続ける理由が常に明確で、しかしながら常に「殺されるかもしれない」と思わせてくる緊張感を途切れさせないシナリオになっています。
最初から最後まで飽きさせないことは、シナリオライターに求められるスキルの一つです。ぜひ一度見ていただきたいと思います。
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